コメント力に反省

韓国では、大韓航空機爆破事件が韓国情報機関の自作自演だと言われた時代が続いた。金賢姫はニセモノだとうそつき呼ばわりされてきた。李明博政権になって、彼女がリベンジにうって出たのが今回の面会だ。彼女の涙には、真実が覆い隠されたくやしい時代をへて、いま晴れてこの日を迎えることへの感慨がある。
また、飯塚さんたちは、北朝鮮での自分を知る人の親族で、母と切り離された耕一郎さんと、北朝鮮の家族と別れ別れになっている自分とは同じ境遇にある。個人的にも思うところは大きかったろう。
韓国の政権交代で面会が実現した。とくに大韓航空機爆破事件は李明博大統領にとって特別な意味がある。犠牲になった乗客のほとんどは韓国が受注した中東の建設現場で働いていた労働者で、なかでも「現代建設」が一番たくさん犠牲者を出した。李明博大統領は当時その「現代建設」の会長だった。
金賢姫は「北朝鮮の自尊心を尊重して」と言うが、逆にプレッシャーをかけることが必要だ。国際刑事裁判所スーダン大統領に逮捕状を出したが、こういう手段も考えていいのではないか。
スーパーモーニングでは、こんな話をしたつもりだが、少々二日酔い気味のせいか言葉が出てこない。つっかえつっかえしゃべりながら、なんでこんな表現しかできないんだろうと情けなくなってくる。意見広告の話をするのも忘れてしまった。スタジオ出演の後は、いつも後悔と反省である。
レギュラーコメンテーターの吉永みち子さんは、95年にソウルで金賢姫と会っている。それを踏まえて吉永さんはこういう意味のことを言った。
「一人は日本語を、もう一人は朝鮮語を強制された人で両方とも被害者だ。金賢姫さんは、95年にお会いしたときから、八重子さんを救いたい、家族に話したいという強い気持ちを持っていた。それが今回十年の時を経てやっと実現した。お母さんが教えた日本語で、親子の絆は確かめられた。あとは、これを受けて、政府がどう次の一歩を踏み出すかだ」
これを、やさしいけれども毅然とした表情で語る。説得力のある実にいいコメントだった。私は自分がコメントする立場にいるのを忘れて感心しながら聞きほれていた。
吉永さんは私の方を見ながら話していた。私が「面会は金賢姫がしかけたリベンジ」という言い方をして、彼女を悪人扱いしているような印象を与えたのかな、ちょっと誤解を招きそうだなと自分でも思っていたことろだった。そこに吉永さんは、金賢姫もかわいそうな犠牲者なんですよとフォローしてくれたのだ。議論の全体を見ながら、自分の役回りをわきまえて演じているのである。
以前から上手なコメンテーターだなあと思っていたが、きょう、そのすごさをそばで実感した。
『「コメント力」を鍛える』という本を出している有田芳生さんに、上手に話す秘訣を聞いてみよう。