逃げ続ける首相―中傷動画疑惑の異様な国会答弁

 高市陣営による対立候補への中傷動画の制作・拡散疑惑。これを整理しよう。

問題の本質は「違法かどうか」ではない

 まず、高市陣営が中傷動画の作成・拡散を指示したことを示す決定的な証拠は、現時点では確認されていない。また、仮にそうした事実があったとしても、それ自体を直接規制する法律は存在しない。

 しかし問題はそこではない。

 真偽不明の情報やネガティブな情報をSNSで大量拡散する行為は、選挙の公平性を大きく損なう。兵庫県知事選では、こうしたSNS空間の過熱が議員を自殺に追い込む深刻な事態にまで発展した。こうした状況を受け、国会ではSNSと選挙をめぐる制度見直しが議論されている。

 その最中に浮上したのが、高市陣営の中傷動画疑惑である。

 首相である高市氏には、疑惑の真偽を率先して明らかにする責務があるはずだ。

■「秘書を信じる」では説明にならない

 ところが高市首相の対応は、説明責任を果たそうとするものとは到底言い難い。

 報道直後の答弁では、

「週刊誌の記事を信じるか秘書を信じるかなら、私は秘書を信じる」

「秘書から『信じてないんですか』と怒られました」などと語った。

 しかし、問われているのは誰を信じるかではない。事実があったのかなかったのかである。

 首相の説明としては、あまりにも幼稚で不誠実だと言わざるを得ない。

■音声確認から逃げ続ける首相

 事態が大きく動いたのは6月3日だった。

 「週刊文春」は、動画制作者の松井健氏と高市氏の第一公設秘書らが参加したとされるオンライン会議の音声を公開した。

 そこで国会では、「その声が秘書本人のものなのか確認してほしい」という当然の要求が出された。

 ところが高市首相は、「有料会員ではないので確認できなかった」と驚くべき答弁をした。

「あの、会員制の有料、有料オンラインなんですね。え、ですから、あの、これ私、あそこまで、え、まあ、これまでも、あの、こちらの言い分は、あの、関係なく、え、その私の面識のない方の言い分を、え、非常にこう、印象操作をして報道してこられた、あの、そこの有料オンライン会員になろうとは思いませんでした。え、のでですね、え、そしてまたその方法もありませんでしたので、え、確認できませんでした。」

TBSより。子どもじみた言い逃れに終始する首相。

 さらに長妻昭議員が「音声データを用意しているので聞いてほしい」と求めると、今度は「有料コンテンツを他人に聞かせると規約違反になるかもしれない」という理由を持ち出し、音声を聞かずに文字起こしだけを読んだという。

「すみません、あの、規約を確認中なんですが、あの、有料のものをですね、えー、ま、他人に聞かしてはいけないと、え、いう規約に、え、抵触しては、あの、いけないかと思いましたもんで、あの、文字起こしを、あの、して、え、もらいました。あの、出所不明のもの、ですけれど、国会では扱わないと、え、聞いております一応、あの、ご指示がありましたので内容確認しました。」

 文春側から提供許可を得ていることまで説明されても、なお本人確認のために音声を聞くことを避け続けた。

 国会では貴重な審議時間を使って、「音声を聞くのか聞かないのか」という不毛な押し問答が続いた。異様な光景である。

 そして翌日の参院予算委では、ようやく音声を聞いたとして、

 「秘書本人かどうか判断するのは難しい」「AIで作られた私の音声も含まれていた」

などと述べ、結局は本人確認を行わなかった。

 論点をずらし、逃げる。追及されるとまた論点をずらして逃げる。これは「早苗話法」とでもいうのか?そうした聞いている方が恥ずかしくなる答弁が延々と続いているのである。

共同通信も独自取材に踏み込んだ

 この問題をこれまで追及してきたのは主として週刊文春だった。

 しかし7日、共同通信が動画制作者の松井健氏に独自取材を行い、配信記事を出したことで状況は変わった。

共同の記事

 松井氏は、高市氏を当選させる目的で小泉進次郎氏らを批判する動画を生成AIで制作し、SNS上で拡散したと証言。高市氏の秘書から「小泉氏を逆転するにはどうしたらいいか」と相談を受けたとも語っている。

 共同通信はさらに、松井氏と秘書との携帯電話のやり取りを確認し、電話番号が秘書本人のものであることも確認したとしている。

 もちろん、これだけで疑惑が立証されたわけではない。

 だが、もはや「週刊誌の記事だから」で片付けられる段階ではなくなったことは確かだ。

求められるのは徹底検証

 民主主義にとって重要なのは、疑惑の存在そのものではない。

 疑惑が生じたときに、権力者が誠実に説明し、検証に応じることである。

 ところが高市首相は、音声確認という極めて単純な作業すら避け続けている。

 この問題は、単なる選挙戦術の是非を超え、SNS時代の民主主義と政治家の説明責任を問う問題である。

 共同通信が取材に踏み込んだ以上、他の新聞やテレビも後に続き、徹底的な検証を進めてほしい。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6678514e66bd5e8238580c6781c4344193b9d01a