停戦破りのイスラエル軍によるガザ攻撃。
すさまじい爆撃で連日多くの死傷者が出るなか、「パレスチナ・トゥデイ」の記者で朝日新聞通信員のムハンマド・マンスールさん(29)が24日、妻と息子とともに殺された。

「朝日新聞」は今月末まで彼の記事を全文無料公開している。
以下は23年10月27日、激しい空爆のなか、マンスールさんが携帯電話のメッセージ機能で通信が遮断される前後を綴った記事。
26日午前4時
近くの民家が激しく空爆される音で目が覚めた。
あまりにもひどい状況だ。疲れ果てて、テーブルの上に突っ伏したまま眠ってしまっていた。
怖い。
叫びだしそうになる気持ちを懸命に抑えながら、空襲された場所を察知しようとする。
殺される順番が回ってきてしまったのは、どの家の家族だろうか、と。
ただ、おびえている我が家の子どもたちの前では笑顔でいるように努めた。
「爆撃は遠く離れた場所であったみたいだから、大丈夫だよ」
うそをついた。でも、子どもたちは少しほっとした様子だった。
午前9時
パン屋に行くと、大勢の人だかりができていた。しかたのないことだし、予想はしていたことだが、思わずイライラしてしまう。
とはいえ、並んで順番を待つしかない。待っている間、人々は声を掛け合い、なぐさめ合っている。
「早くこの戦争が終わればいいのに」という言葉が聞こえる。
その願いはかなわないと分かっているから、気持ちは上を向くどころか、悲しくなる。
午前11時
やっとのことでパンを手に入れて帰宅すると、飲み水が尽きていた。兄が水をくみに出かけたが、手に入ったのは井戸水だけだ。
衛生状態が悪く、飲むのに適さない。でも、生きなくてはならない。家族でしかたなく、汚水をのどに流し込んだ。
同じ日、「アルジャジーラ」のジャーナリスト、ホッサム・シャバットさん(23)がガザ北部のベイトラヒヤ東部で殺害された。目撃者は、彼の車がイスラエル軍に直接狙われたと証言する。イスラエルは彼がハマスのメンバーだったとして狙って殺害したことを認めている。まさにこの攻撃はパレスチナ人ジャーナリストとメディア関係者に対する組織的犯罪」(ガザの政府メディアオフィス)だ。
CPJ(米ジャーナリスト保護委員会)によれば、シャバトとマンスール両氏の死によって、2023年10月7日以降、ガザで殺害されたメディア関係者の総数は少なくとも160人に上る。しかし、政府メディア局は、その数は208人にも上ると主張している。
なお、CPJは、私がタイで取材中に軍に拘束されたさい保護が必要かと最初に連絡してくれた。30年も前の話だが。
ジャーナリストを狙い撃ちにする一方で、イスラエルは食糧の搬入も3週間止めている。人道のかけらも肯んじないやり方を世界は止められないでいる。
この事態を多くの日本のマスコミは「パレスチナのガザ地区では、停戦協議の行き詰まりから、イスラエル軍が3月18日に大規模な攻撃を再開しました」(NHK)と報じるが、これではイスラエルが攻撃するのにも「理由」があると誤解させる。
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アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞受賞作「ノー・アザーランド」を遅まきながら観た。この映画の共同監督のハムダーン・バラール氏が、ヨルダン川西岸の自宅でイスラエル人入植者に暴行を加えられ、イスラエル軍に連れ去られたとの報に、急いで観なくてはと映画館に行った。
あるパレスチナ人の農村に突然、立ち退き命令が出たとイスラエル軍が家々を破壊しにやってくる。家の再建を妨害しようと大工道具や発電機まで没収しようとするイスラエル軍。抵抗する村人は銃撃され全身不随に。村人が自力で建てた小学校が、ショベルカーで壊されていくのを見る人々の怒りと悲しみの目。ニュースで伝えられるイスラエルの蛮行が、具体的なある村の日常として描かれていく。これが「占領」なのか・・。あまりに一方的な暴力に、ため息しか出てこない。ただ、この絶望的な状況のなかでもユーモアを忘れない人々、主人公のパレスチナ人とユダヤ人の友情にわずかな希望を見た。
なによりも、今の事態の「原因」が、一昨年10月のハマスの襲撃ではないことがよくわかる。ぜひ多くの人に観てほしい映画だ。
なお、ハムダーン氏が解放されて病院で治療を受けていると、映画の主人公であるバーセル氏が投稿していて、とりあえずホッとした。
