ウクライナの苦闘を世界のなかで位置づける

 コロンビア大学の元大学院生マフムード・カリル氏が、イスラエルへの抗議デモを主導したとして拘束された。

拘束されたカリル氏(日テレニュースより)

抗議する大学の教員たち


 カリル氏は去年春、学生らがイスラエルへの抗議をしていた際、大学側と交渉するなど抗議デモを主導したとされている。コロンビア大学では、イスラエルガザ地区への攻撃を始めて以来、パレスチナを支持するデモが活発化し、去年春に全米の大学で反イスラエルデモが広がるきっかけとなった。

 国土安全保障省は9日、この拘束は1月の「反ユダヤ主義的な嫌がらせや暴力の加害者には、訴追、追放、またはほかの方法で責任を問う」とするトランプ氏の大統領令基づくものだと発表した。

 カリル氏の逮捕を受け、トランプ大統領は自身のSNS「多くの逮捕の始まりだ。私たちはテロリストを見つけ出し、逮捕し、国外追放し、二度と戻らないようにする」と投稿。

 数日前には、コロンビア大に政府の補助金を取り消す措置が発表されたばかりだった。

「トランプ米政権は7日、ニューヨークの名門校コロンビア大への補助金約4億ドル(約590億円)を取り消すと発表した。

 「ユダヤ人学生に対する嫌がらせへの対策を怠り続けたため」と説明している。

 パレスチナ自治区ガザで民間人が多数犠牲となったことを受け、コロンビアなど一部の大学ではイスラエルへの抗議運動が活発化。親イスラエルの立場を取るトランプ大統領は今月、デモを許可した大学への連邦資金拠出を停止し「扇動者を投獄する」とSNSで述べていた。」(時事)

 アメリカがここまで来たかと愕然とさせるニュース。多くの若いユダヤ人たちがイスラエルのガザにおける虐殺に抗議の声を上げたことに見られるように、彼らの言動は「反ユダヤ主義」でもなんでもない。何より言論の自由をもっとも重要な価値の一つとかかげるアメリカが、この非暴力的な抗議行動を事実上禁止し、抗議の口封じをするとは、独裁への道をひた走っているようで、そら恐ろしい。

 ウクライナへの軍事支援停止に踏み切ったトランプ政権は、いわゆる「同盟国」からの信頼を完全に失った。トランプ氏の頭の中では、世界は「アメリカ」と「その他」の二つからできており、「その他」は「アメリカ」(と私)に奉仕する存在、となっているらしい。

 ウクライナ国民は怒り、失望すると同時に一方では国内の結束が一段と強まっているという。前線で苦戦する兵士たち、空からの攻撃に連日さらされている銃後の人々のことを思うと、気が気でないが、加藤直樹さんのFBに今の状況を俯瞰的に見るベトナム人の言葉を紹介していた。とても含蓄のある文章なので引用させていただく。


[ゼレンスキーとトランプの会談について、ベトナム政治学グエン・ミン・ゴックさんが今日、ツイートしていた。ベトナムの知性ならではの視点であるので紹介する。

「見ていてつらい。私は23年4月に書いたエッセイで、すでにこうなることを予見していた。そして、ウクライナが、より広い世界の中に、彼らの成長しつつあるアイデンティティを位置付け直すときだと呼びかけていた。『文明世界』(注:欧米)に属することが、ウクライナの独立を保証するわけではないのだ」

グエンさんは、ウクライナ全面侵攻の翌年、ウクライナの左翼理論誌「コモンズ」に寄稿していた。「コモンズ」は当時、ウクライナの抵抗を「ヨーロッパ世界」に閉じ込めず、グローバルサウスと結合したものにすべきだという主張を展開し、インドの共産主義活動家やグエンさんなどに寄稿してもらっていた(インドの人はキーウまで来た)。また、「(世界資本主義の)周辺部をつなぐ」といったタイトルの世界討論企画をやっていた。

 グエンさんの寄稿は、「ウクライナの抵抗は全面的に正しい」と語るベトナムの老将軍の言葉を引用しつつ、「しかしなぜ、ウクライナはグローバルサウスに味方を得ることができないでいるのか」と問いかけるものであった。もっと普遍的な反植民地闘争の文脈に位置付けて自己を理解し、発信しなければならないというのである。ウクライナの抵抗に連帯する立場からの提起だった。

 グエンさんは明確にウクライナ連帯の立場から書いている。被害者への「採点」ではない。だから私たちも、私たち自身がウクライナの人々の苦闘(戦争だけではない)を世界のなかで位置付けて考えるためのヒントとして受け止めるべきだと思う。》