今年度のJCJの大賞は赤旗日曜版だったが、それ以外のJCJ賞は以下の4点だった。
このうち後藤秀典さんは、以前「ジン・ネット」で一緒に仕事をした仲間である。彼は、電力会社・最高裁・国・巨大法律事務所の人脈図を描くことによって、「原子力ムラ」に司法エリートが含まれることを暴いた。弁護士を数百人かかえるBig Fiveと呼ばれる巨大法律事務所があるが、例えばそこに所属する弁護士Aは、原子力規制庁のメンバーで一審では国側の指定代理人であったが控訴審では東電の代理人として登場する。また最高裁の判事が東電とツーツーの巨大法律事務所の出身だったりするのは珍しくない。これでは原発事故被害者たちが最高裁で負け続けるのは当たりまえだ。
贈賞式の記念講演は、裏金問題で告発をつづける神戸学院大の上脇博之教授だった。
上脇教授は、政治家を告発して司法につなげることは、メディアの調査報道があってはじめてできるのだと報道の重要性を強調した。上脇教授が語った報道と告発の例をいくつかあげると—
安倍晋三総理主催「桜を見る会」記事中の「違法の疑い『前夜祭』」しんぶん赤旗日曜版2019年10月13日号、同月20日号、11月24日号 |
2020年5月21日、全国の弁護士・法律家6623 名が安倍晋三総理や「安倍晋三後援会」代表らを政治資金収支報告書不記載罪(政治資金規正法違反)等で東京地検に告発。その後も告発。 |
「安倍政権の首相補佐官“闇パーティー”の疑い」しんぶん赤旗日曜版2021年3月21日号、「㊙勉強会のライズ社と薗浦議員 闇パーティー疑惑」しんぶん赤旗日曜版5月30日号 |
2021年9月28日、私は薗浦健太郎議員と会計責任者(公設第一秘書)を2019年政治資金パーティー収支不記載・虚偽記入罪(政治資金規正法違反)で東京地検に告発 |
「パー券収入脱法的隠蔽 2500万円分不記載」しんぶん赤旗日曜版2022年11月6日号 |
2022年11月9日以降、私は自民党の5派閥政治団体の会長・会計責任者らを20万円超政治資金パーティー収入明細不記載・虚偽記入罪(政治資金規正法違反)で東京地検に告発 |
「岡山県 伊原木知事後援会 法律上限超える寄付受領か」NHK政治マガジン2021年12月21日 |
2023年3月2日以降、私は「いばらぎ隆太後援会」等複数の政治団体の代表者・会計責任者らを寄附上限150万円を超える違法寄附及び政治資金収支報告書虚偽記入罪(政治資金規正法違反)で岡山地検の告発 |
今回の「政治と金」問題では、赤旗日曜版がダントツで、きょう届いた10月20日号には、森山派と小泉進次郎・選挙対策委員長にも裏金疑惑というスクープが載っている。
森山裕幹事長が代表だった近未来政治研究会(4月解散)は政治資金パーティの収入を7年間で332万円過小に記載。
一方、自民党神奈川県連は22年、県内の自民党支部に698万円を支出しながら収支報告書に不記載、また同年のパーティ収入を40万円分記載しなかったとして上脇教授は、11日、同県連の代表だった小泉氏ら3人を、政治資金規正法違反で東京地検に告発した。
先日、石破氏の疑惑も表面化したが、自民の「裏金議員非公認」を決めた石破、森山、小泉の3人全員に不記載疑惑が出てきたわけである。
なぜ赤旗日曜版がこれほどスクープを連発できるのか?
JCJ贈賞式のあとの懇親会で、スクープを次々に放っている笹川神由(かみゆ)記者とたまたま同じテーブルになった。そのテーブルには数人のジャーナリスト志望の学生もいて、はじめはその一人かと誤解していた。口数少なく静かに微笑んで存在感の薄い若者(失礼)だったので、まさか彼がそのスクープ記者とは思わなかったのだ。
そして、笹川記者の語る取材活動の実態は、居合わせたジャーナリストたちを驚愕させた。
まず、赤旗は共産党の機関紙であるから、裏金追及の取材は当然、党の組織的なプロジェクトとして行われているのだろうと思っていた。また、たいへんな量の文書や資料を細かく地道に当たっていく作業となれば、少なくとも数名のしっかりしたチームが組まれているだろうと想像していた。
ところが、この取材は笹川記者が、党の幹部や日曜版の山本豊彦編集長の指示のないまま、「変なことが起きているから調べてみよう」と「勝手に」はじめたのだという。取材経過を報告するのは山田健介担当デスク一人だけで、具体的な取材のやり方は干渉されず、自分で決めてやっているそうだ。贈賞式にも懇親会にも、商業紙の記者、デスクやOBがたくさん来ていたが、彼らよりずっと自由な取材活動が行われているさまに驚いていた。赤旗の日刊紙ではなく、日曜版がスクープを飛ばしていたのは、取材していたのが日曜版所属記者の笹川さんだったからなのだ。
笹川さんの経歴を聞いてまた驚いた。大阪の高校を卒業したあとトラックの運転手を4年間やって赤旗の記者になったというのだ。高卒の記者とは、いわゆる敏腕記者のイメージとはかけ離れている。
庶民感覚で素朴に「おかしい」と思ったことを地道に調べる、これが笹川さんのやり方だと聞いて、なるほどとみなうなった。政治家なら多少汚いことやってるのは当たり前と触手を動かさないエリート記者とここが違うのだろう。
この笹川さんという若い記者一人が、岸田政権を崩壊させるきっかけを作ったのか、と感慨深く話を聞いた。すれない素直な問題意識と粘り強い調査。あらためてジャーナリズムの原点を見たように感じた。こういうとき、日本のジャーナリズムも捨てたものではないと希望を持つ。