タリバン政権下で広がる「地下学校」の抵抗

勝ち負けをジャンケンで決める僕たちはキエフがキーウになったと知らず (堀川珠璃依)

明日があることに苦しむ僕たちと明日を生きたいと祈る彼ら (吉井万由子)

 歌人の今野寿美さんが、文芸創作の授業で「ウクライナ」と題を与えたさいの女子大生の二首だという。

 今の若い女性が、ふつうに「僕」という一人称を使うのに驚く私は、もう時代についていけない感じだが、この二首には惹きつけられた。

 平和な日本で、あるいは能天気に、あるいは厭世観に浸りながら生きている自分たち日本の若者を描いていながらも、ウクライナと向きあって、それでいいのかと自問する姿勢がある。戦争の理不尽さも浮かび上がらせている。

 「この二首の社会意識、表現の喚起力に感心してしまった。若い層だって戦争の非、愚かさを思いはしても、それを歌に詠むという発想がなかっただけなのかもしれない。ささやかな一首でも、確かな発信だ。」(今野寿美さん、8月7日朝日歌壇より)

 若い人たちにかぎらず、表現、発信の場、チャンスがふんだんにある世の中にしていきたい。

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FBアフガニスタン・リポートつづき。

11月26日(土)。アフガニスタン13日目。といっても、今アフガニスタンから出て中東のある空港に着いた。
 あの国に滞在中、万が一を考えて発信しなかった女子のための「地下学校」の取材を報告しよう。

おそらくアフガニスタンで最大規模の地下学校の修了式。この教室はすでに「分校」を数か所にもち拡大を続けている。

 きのう、ジャララバードからカブールに戻ってきた。

 そびえ立つ岩山の間を縫ってのドライブの途中、道路から10メートルほどの高さの斜面にコンクリートの小さな四角い建造物が見えた。同行のジャーナリスト、遠藤正雄さんが「ソ連軍のトーチカですよ。むかし、私たち、ここを攻撃しに来ました」という。
 えっ、どういうこと?

 1980年代後半、「ムジャヒディン」といわれるイスラム戦士の武装勢力各派が全土でソ連軍と戦っていた。遠藤さんはその従軍取材を繰り返していたが、その時はパキスタン国境を越えて「イスラム協会」(マスード司令官が設立した武装勢力)とともにこのトーチカ周辺のソ連軍を攻撃する作戦に同行していたのだった。

 40~50人の「ムジャヒディン」が、無反動砲やRPGロール・プレイング・ゲームではなくロケット・プロペルド・グレネイド=グレネードランチャー)などでソ連軍の車列を急襲。

 長い車列の先頭と後尾の車両を破壊し、動きがとれなくなったソ連軍に一斉に攻撃を加え、サッと引いたという。ヒットエンドランの作戦である。遠藤さんはそれを撮影していたのだ。

カブールとジャララバードを結ぶ山間の道。パキスタン国境を越えてこのあたりまでジャーナリストたちは従軍取材でやってきたという。
 「南條直子さんが亡くなったのはこの近くです」と遠藤さん。 

 フォトグラファーの南條直子さんは、3度目のアフガニスタン内戦取材で地雷を踏んで亡くなっている。

 遠藤さんの話で、ジャーナリストたちが、パキスタン国境からかなり深く入り込んで取材していたことを生々しく知ることができた。ほんとうにごくろうさまでした。

 海外取材の場合、よそ者である私たちが安全に効率よく取材するには、現地ガイド(コーディネーター、フィクサーともいう)が必要だが、タリバンによる政権奪取のあと、外国メディアを助けてきた有能なベテランのコーディネーターはほとんど外国に逃げてしまった。

 今回私たちが雇った通訳兼ガイドは、外国メディアにアテンドした経験が2回しかない「かけ出し」で、コーディネート力はいま一つ。
 今回の取材ができたのは、70年代から数えきれないほどの回数アフガニスタンを訪れている遠藤さんの人脈、情報、リスク管理力のおかげである。感謝。

 遠藤さんが独自の人脈をたどってスクープ取材となったのが、学校に通えない女子を隠れて教育する「地下学校」だ。しかも二カ所も。
 さらに「修了式」にカメラを入れてくれ、100人を超える女生徒が参列、一人ひとりに「校長」が修了証を手渡し、ケーキでお祝いする様子を撮影することができた。
 これほどの規模の地下学校の映像は、まだどの国のメディアにも流れていないはずだ。

 タリバンが政権についた後の教育政策について簡単に説明するとー
 アフガニスタンの教育制度は12年(6-3-3)の上に大学などの高等教育がある点、日本とほぼ同じだ。タリバンはこのうち、7年生から12年生までの6年、日本でいう中学・高校にあたる課程に女子が通うのを禁止した。

 ただ、大学で女子が学ぶのは許している。小学校の女子教育には女性の教師が必要だし、女医でなければ女性患者を診ることができないから、一定の数の女性専門職が必須であることはタリバンも認めている。 

しかし、女子に中学・高校の教育を禁止しておいて、大学への入学は認めるというのは、むちゃくちゃである。12学年(高校3年)の卒業資格がなければ入試が受けられない。

 タリバンは去年、中高教育を廃止するにあたって、11年生と12年生の女子には無条件に卒業資格を与えた。この二つの学年の女子が去年と今年の秋、二回の大学入試を受けている。しかし、去年10年生以下だった女生徒は卒業資格がもらえていない。
 来年からの大学入試はどうするのか・・。

 こうした状況のなかで、学校に行くことを禁じられた女生徒たちの苦悩は深い。少女たちの学びたい要求に応えるため、タリバンの目から隠れて教育を提供するのが、「地下学校」だ。

こちらは修了式を取材したのとは違うもう一つの「地下学校」。この日は、私たちの取材へのサービスか、中村哲医師の偉業を描いた本を教材にして教えていた。

 修了式の挨拶に立った「校長」は感極まり、涙で言葉を続けられず、この学校を維持するリスクと苦労の大きさが偲ばれた。

 1人の修了生が「女性について」というスピーチを英語で行った。
コーランによれば、女性は男性とともに社会の重要な成員であり、勤労は人間の生活の基本である。女性は男性とおなじく自立して働き、コミュニティの経済、社会、政治のあらゆる面での活動に参加すべきである。それなしに進歩的な国づくりはありえない。
 聖なる預言によれば、知識を求めることはすべてのムスリムの義務である。私たちはタリバンに女子の学校を開くよう、女子に科学の勉強を禁じる措置をやめるよう要求する・・・」


 あどけなさの残る表情で、つっかえながら切々と語りかける彼女を撮影しながら、私も感動してこみ上げるものがあった。 

修了式で、女子生徒は、英語でつっかえながら、しかし堂々と、女性は社会で男性と並び立つべきだ、タリバンは女子教育を認めよと訴えた。カメラにも顔を隠さなかった。
 この学校はすでに「分校」が複数できるまでに拡大しているが、受講希望者数の増加をまえに資金難にあえいでいる。
 少ない有志のカンパでは今の規模で維持するのも厳しいという。私個人も協力するつもりだが、どこか日本の草の根のグループに支援の意向があれば、私にご連絡を。