ワクチンで集団免疫は困難

 東京や大阪など19都道府県で緊急事態宣言が延長されるのを受けて、夕方、菅首相が記者会見を行った。
 総裁選不出馬についても触れたが、我々が知りたい具体的な話はなかった。新型コロナ関連では、「全国各地で、感染者はようやく減少傾向をたどっているが、重症者数は依然として高い水準が続いている」と当たり前の指摘をしたあと、ワクチン接種の実績を誇った。

 気になるのは、菅首相が唯一の切り札としてきたワクチン接種だけではコロナを収束させられないことが明らかになってきたことだ。

 政府の新型コロナ対策分科会が今月3日にまとめた提言でも―
「全ての希望者がワクチン接種を終えたとしても、社会全体が守られるという意味での集団免疫の獲得は困難」とされている。

 そのいい例がイスラエルだ。
 ワクチン接種では世界の先頭を走ってきたイスラエルでは、4月ごろにはいち早く社会と経済を再開させて、市民が日常生活を楽しんでいる様子が報じられていた。そのイスラエルでデルタ株が感染爆発、9月4日までの1週間では人口当たりの感染症例が世界最多となったという。1日の感染者が2万人を超えた日もある。

 

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朝日新聞より


当初はワクチン接種が人口の6割ほどに達すれば、集団免疫ができると考えられていたが、そうではなかった。
 イスラエル保健省の発表によると、従来株に対する感染リスクを90%近く下げるとされた米ファイザー製ワクチンの効果が、デルタ株に対しては64%に下がったという。

 いまイスラエルでは追加で3回目のワクチンを打つ「ブースター接種」を進めている。イスラエル政府は先月29日、3回目接種を12歳以上の国民にも実施すると発表した。ブースター接種の効果を世界中が注視している。

 9月3日、キューバが12歳以上への新型コロナウイルスワクチン接種を開始し、6日には2歳以上への接種を始めたとのニュースが流れた。12歳未満への集団接種は世界で初めて。

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キューバでは2歳以上に国産ワクチン接種開始(AFP)

 キューバはワクチンは輸入せず、自国で開発するという方針で、接種するのは2種の国産ワクチンだ

 キューバが4種のコロナワクチンを開発中というのは知っていたが、すでに国産ワクチンの接種を実際に進めていることに驚いた。

 調べると、キューバ政府は6月、3回接種型の「アブダラ」が、後期臨床試験で92.28%の有効性を示したと発表していた。

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キューバの国産ワクチン

 

 アメリカからの厳しい制裁の下、経済危機に苦しむキューバでは、通常の医薬品も事欠くありさまだなのだが、歯を食いしばってワクチンを開発したのだなと感心した。

 実はキューバは医療を重視している。ゲバラ医学生だったし、その娘は小児科医になった。

takase.hatenablog.jp

 医療水準が高く、バイオテクノロジーも進んでいて、「肺がんワクチン」なども開発している。

 新型コロナワクチンも独自の作用機序で、いま実用化されている「アブダラ」と「ソベラナ」は3回接種型、開発中の「マムビサ」というワクチンは鼻孔にスプレーするユニークなものだ。
 キューバの国産ワクチンはいずれも世界保健機関(WHO)による承認は受けていないが、多くの国から引きあいがあるという。キューバ政府は貧困国には無償でワクチンを供与するといっている。

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ワクチン接種をゲバラが見下ろすシュールな映像(NTV)


 キューバの奮闘ぶりを見るにつけ、日本のワクチン開発の出遅れが残念だ。この出遅れは日本の厚生行政からくると指摘されている。

 新型コロナウイルスは今後も変異しつづけるだろう。するとインフルエンザのような対策になるのではないか。

 たとえば、今年のインフルエンザワクチンは以下の4種の抗原を含むそうだ。
 1)いわゆる新型ブタインフル(A型H1N1) =A/ビクトリア/1/2020(IVR-217)(H1N1)
 2)季節性A型(いわゆるA香港型)(A型H3N2)=A/タスマニア/503/2020(IVR-221)(H3N2)
 3)季節性B型=B/プーケット/3073/2013(山形系統) 
 4)季節性B型=B/ビクトリア/705/2018(BVR-11)(ビクトリア系統)
 
 そのうち、新型コロナワクチンも、毎年変異株に応じて開発し、接種していくことになるかもしれない。日本政府はワクチン開発が促進されるよう支援すべきだ。