総務省接待問題の幕引きを許すな

 放送関連会社「東北新社」(TFC)による総務省幹部の接待問題。

 「東北新社」は日本最大の番組制作会社で、テレビだけでなくCM制作、海外のテレビ・映画の輸入配給・字幕吹替の翻訳からイベント事業まで多くの分野でビジネスを展開、「スターチャンネル」、「囲碁将棋チャンネル」など8つの衛星チャンネルも運営している。20年3月期の連結売上高は598億円、社員数はグループで約1600人。

 私は「ジン・ネット」という番組制作会社を経営していたので、同業の「東北新社」とは多少のご縁がある。
 「情熱大陸」などいくつかの番組では競合する関係で、「東北新社」のスタッフとは各種パーティや会合で顔を合わせることがあった。また、「東北新社」のグループ企業のスタジオで番組を編集したこともある。

 あるとき、地球温暖化問題に関するNHK向けの大型の番組企画を構想し、お付き合いのあったNHKの元幹部局員に相談した。
 その元局員はNHK退職後「東北新社」を「お手伝い」しており、番組を共同制作しないかと誘われた。そこで打合せのため、赤坂見附駅から歩いて5分の「東北新社」ビルにしばらく通った。

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 結局番組は実現せずに終わったのだが、そのとき「東北新社」のシビアに利益を上げる会社運営を垣間見て、うちのどんぶり勘定の経営とは違うなと感心した覚えがある。

 「東北新社」のHPをみると、26日付けで社長の二宮清隆氏の引責辞任のほか、接待した執行役員や取締役の解任・辞任が載っている。
 菅首相の長男、正剛氏については―
《菅統括部長   就業規則に基づき懲戒処分を行い、メディア事業部趣味・エンタメ
コミュニティ統括部長の任を解き、人事部付とする。また、株式会社囲碁将棋チャンネルの取締役を辞任。》とある。
https://www.tfc.co.jp/news/2021/02/1659.html

 この事件の構図は、テレビ業界の人間から見ると、とても分かりやすい。

 テレビは新聞などとは違って、許認可事業である。放送・通信を主管する総務省の意向次第で、事業が左右される。

 菅義偉首相は総務省族議員小泉内閣竹中平蔵氏が総務大臣をしたときの副大臣で、安倍内閣総務大臣になった大臣秘書官に菅氏は息子の正剛氏を起用している。

 その後、菅正剛氏はTFCに「就職」する。ある種の天下りで、「東北新社」としては総務省および菅義偉氏との最強のコネクションをありがたく「お迎え」したわけだ。
 「東北新社」の創業者、植村伴次郎氏は菅氏と同じ秋田県出身。菅氏は2012年以降、植村家から個人献金を500万円受けている。『週刊文春』によれば、菅氏は正剛氏を植村氏に「鞄持ち」として預け、植村氏は正剛氏を孫のように可愛がっていたというエピソードもあるという。すでに特殊な関係にあったわけだ。

 さすが安倍氏の後継内閣、個人的な「お友だち」を政府ぐるみで助けてやった「モリカケ」の構図と同じだ。
総務省は12日の衆院予算委員会で、2018年にCS放送業務として認定された12社16番組のうち、東北新社子会社の番組だけがハイビジョン未対応で認定されたことを認めた』(毎日新聞)。
 認定されたのが、菅正剛氏が取締役をしていた「囲碁将棋チャンネル」。
 今後、さらに「東北新社」への優遇措置が明らかになることを期待する。

 今回発覚した接待の対象は、総務省の審議官、局長などの大幹部ぞろい。普通の番組制作会社がおいそれと「どう、飲みにいかない?」と誘える面々ではない。総務省の調査では、TFC以外からの接待は確認されなかったというが、あたりまえだ。

 「東北新社」からのお誘いとあれば、総務省の幹部らはそこに菅義偉氏と正剛氏の存在を感じないわけにはいかない。

 ジャーナリストの今西憲之氏に総務省官僚がこう言ったという。
菅首相は政治家として、人事権を使って官僚を意のままに動かすと公言しています。要するに、官僚人生で最も大事な人事。菅首相はそれを握り、自在に使いこなすと言っている、最強の人ですよ。その長男、菅正剛氏が参加するという会合があれば、そりゃ、断れません。問題になっている13人のうちの1人と話したが、『総理の長男が来るのに、断るなんてできるわけない』と明確に言っていた。それが本音です」(週刊朝日オンライン)

 もし、接待の場で具体的な便宜の話が出ていなかったとしても、特定の企業に所轄官庁が取り込まれていること自体が大問題だ。
 また、菅氏の恣意的な官僚人事も俎上にあげなければならない。

 総務省は接待を受けた計11人に減給、戒告などの処分を行ったが、計12万円(最高額)の接待を受けた谷脇康彦総務審議官(次官につぐポスト)などは職にとどまる。
 また、総務審議官時代に1回で7万4千円を超す接待を受けた山田真貴子・内閣広報官(60)も1ヵ月間、月給の6割(70万円)を返納しただけでそのまま職を続けるという。

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wikipediaより)

 こんな処分でいいわけがない。政府への信頼がますます失われるだけだ。
(なお、総務省で更迭された秋本芳徳情報流通行政局長の後任になった吉田博史総括審議官は山田真貴子氏の夫)

 山田真貴子氏は、菅氏が総務省から内閣広報官に抜擢した懐刀で、首相記者会見を「次の日程がありますので」と打ち切る強引な仕切りで知られる。

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菅首相の頼りになる会見の仕切り屋

 菅氏とズブズブの「東北新社」の豪華な接待を受ける一方で、NHKには放送内容で抗議の電話をするなど、露骨な圧力をかけていた。

 今回の事件は、報道の自由という観点からも、このまま終わらせてはならない。