大きな芙蓉の花に蝶、たぶんムラサキシジミが潜り込むようにして蜜を吸っている。
こういう光景を見ると、「ああ、共進化なんだなあ」と、地球の生命の進化史のワンシーンを思い起こしてうれしくなる。
6000万年前のこと、巨大隕石の落下によるとされる突然の地球環境の激変で、生物の大絶滅が起こる。体長15センチ以上の動物は死に絶え、それまで生物界に君臨してきた恐竜も絶滅した。
かわってやってきたのが哺乳類の時代だ。小さなネズミのような哺乳類は、恐竜を恐れて夜にだけ活動してきた「日陰者」だったが、恐竜のいなくなった空白を埋め、生物界の主役に躍りでる。
植物の世界では、花を咲かせ蜜を蓄え果実を実らせる被子植物が、シダ類やスギなどの裸子植物を圧倒していく。風媒の裸子植物と違って、被子植物は花と蜜で昆虫を呼び込んで受精し、果実で哺乳類や鳥を引き寄せ、遠くまで種を広める生殖戦略を採った。結果、被子植物、昆虫、哺乳類、鳥類が共生関係を築いて大繁栄する。これを「共進化」という。
こうして、大小さまざまな哺乳類と色とりどりの花を咲かせる植物、空を舞う多様な昆虫や鳥という、豊かでカラフルないのちの世界が幕を開けたのだった。
想像すると、すばらしい映像が頭に浮かんでくる。
地球の生き物は、大半の生物種が滅びる「ビッグファイブ」と呼ばれる5回の大絶滅期を生き延びてきたが、そのたびに飛躍的な進化を遂げている。この宇宙において、絶滅や死は、次の新たな飛躍の準備である。そう思えば、何も怖くなくなる。
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次の自民党総裁は菅氏で決まりらしい。この裏で進行している一連の動きが実に気持ち悪い。そもそも、この人ほど一国のリーダーに向かない人はいないと思う。
自死した近畿財務局の赤木俊夫さんの妻が再調査を求めても「すでに結論が出ている」。加計学園の問題では「法令にのっとり進められた」。記者会見ではぐらかしてばかりの姿には信頼感ゼロ。あの表情と話ぶりで海外の首脳と丁々発止渡り合う姿を想像することもできない。
主要派閥がみな菅氏に乗っかったのは、安倍政権時代の様々な後ろめたい行為をほじくり返されたくない、「共犯者」の結束ではないのか。きょうの朝日川柳から。
総理より病状重い民主主義 (愛知県 石川国男)
不気味なりすべてを見たる男なり (滋賀県 渥美保)
高まれ、ブーイングの声。
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きのう、ある慰安婦問題のセミナーに参加した。
講師は朝日新聞編集委員の北野隆一さん。出版されたばかりの『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』(朝日選書)の著者である。北野さんは北朝鮮による拉致問題を担当していて知り合った。誠実に取材する有能な記者である。
慰安婦問題には因縁がある。
私は戦後処理の問題に関心をもっていて、サハリン(樺太)の残留朝鮮人を取材し、何本か番組を作った。残留朝鮮人については様々な運動があり、「樺太残留者帰還請求訴訟」も提起されていた。この裁判の証人の一人が、吉田清治氏、あの「慰安婦狩り」の捏造証言をした人物である。そんな事情もあったので、番組にはしていないが、勉強は続けてきた。
左右の筆頭論客である吉見義明氏、秦郁彦氏のどちらからも学ばせてもらった。朴裕河氏の講演も聞いたし、「朝日は国賊だ」とする団体の勉強会に出て、そちら側の主張も理解した。私の意見はおいおい書いていこう。
北野さんの本は、朝日新聞が提訴された3本の集団訴訟と米国の慰安婦像撤去訴訟および元朝日記者の植村隆氏が雑誌などを訴えた訴訟の5つを、オビにあるように「克明に記録」したものだ。
これを読めば、いま日本で議論になっている慰安婦をめぐるあらゆる論点が理解できる。また、膨大な資料を引用しているので資料集としても役に立つ。
慰安婦問題では、ネットや雑誌で朝日新聞が標的になって激しくバッシングされ、脅迫までされるご時世、現役の編集委員の北野さんが、もろに朝日をめぐる訴訟をテーマに講演するというのはとても勇気がいることだ。拍手!
北野さんは冷静に裁判を振り返るとともに、朝日内部の諸事情もリアルに吐露して非常におもしろかった。
ここでは訴訟の論点は紹介しないが、一つとても印象に残ったことがある。
北野さんはこの本の一番最後に、日本政府の二つの言葉を載せている。以下が、まったく論評なしに、ただポンと並べて置いてあるのだ。読者のみなさん、何を感じますかとでもいうように。
一つは、2015年12月28日、日韓外相会談で慰安婦問題をめぐって日韓政府が合意した際の共同記者会見における岸田文雄外相の発言から(https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001667.html)
慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。
今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
もう一つは、1993年8月4日の「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」(いわゆる「河野談話」)から(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html)
本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。
われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。
岸田外相の赤字の部分は河野談話の引き写しだ。(本には赤字や下線はない)
広島と長崎の慰霊祭で安倍総理が読み上げたのはコピペした言葉だったが、それと同じく「まあ、このくらいのことを言っておけばいいだろう」と、問題に真剣に向き合いたくないという姿勢を私は感じた。
ほんとうはその「姿勢」こそが一番問題なのではないか。