自転車でぶらつきながら古墳を見るのが好きだ。
自宅から数キロの範囲に、古墳が十ヵ所ほどある。宅地開発でかろうじてつぶされずに残ったもので、これはその一つ、首塚古墳。伝承では、新田義貞の鎌倉攻めの際に討ち死にした武将の首が葬られたことになっているそうだ。
ネット情報では「径10m、高さ2mの円墳」とされているが、もはや原型をとどめておらず、裏庭にあるお稲荷さんといった風情。
掃除をしている近所のおばさん(70歳くらい)に聞くと、私はお稲荷さんだと思っていたら、古墳だと言って見学に来る人がいるんですけどね、よく知りません、とのこと。「私が子どものころ、この辺りは一面雑木林でね」と昔話を聞かせてくれた。こんなちょっとした出会いが楽しい。
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香港で一気に本格的な言論弾圧がはじまった。
特定の本が、図書館で読めなくなったという。
「香港国家安全維持法(国安法)が香港に“焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)”をもたらした」と香港の新聞『蘋果(ひんか)日報』(りんご日報)は報じる。
あれよあれよという間に、香港は香港でなくなっていく。
《反体制な言動を取り締まる「香港国家安全維持法」(国安法)が施行された香港で、公立図書館が民主活動家らの著書の閲覧や貸し出しを停止した。(略)
対象の書籍は雨傘運動のリーダーだった民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏のほか、立法会(議会)議員の陳淑荘(タンヤ・チャン)氏、作家の陳雲氏の民主派3人が書いた計9種類。各地の公立図書館が計約400冊所蔵していたが、4日までに本棚から撤去されたという。蔵書検索サイトでは「審査中」と表示され、貸し出し予約ができない状態だ。》(朝日新聞6日https://www.asahi.com/articles/ASN756RHSN75UHMC002.html)
《黄氏はフェイスブックで「白色テロ(権力側による弾圧)が広がり、国安法が言論統制の道具になっている」と批判。極端な言論統制が敷かれた架空の社会を舞台にした日本の小説「図書館戦争」になぞらえ、「『図書館戦争』のようなことが香港で起きている」と訴えた。》(中日新聞6日https://www.chunichi.co.jp/article/84092)
これが進めば、本の発禁までいくはずだ。まるで中国本土並みだ。
メディアは萎縮させられ、映画、演劇、音楽、文学などの創作活動も非常に窮屈になるだろう。
梶井基次郎の『檸檬』では、主人公がレモンを爆弾に見立てて、本屋の「丸善」の棚に置き、「もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう」と妄想するが、「丸善」を「香港警察」に設定したら、私小説でもアウトだろう。
私たちが当たり前に享受している言論の自由は、様々な自由の根幹をなすもので、これを抑圧することは社会のすみずみにまでその影響がおよんでいく。家族との電話、喫茶店でのおしゃべり、はては日記の表現にまで気を遣うようになる。
大変な時代がやってきた。