公開された近財局職員の「手記」

 公文書改ざんを強いられ自死した近財局職員の遺書(手記)が公開され、遺族が国を提訴。 

 森友学園問題が再び「破裂」した。

近財職員の妻、佐川氏と国を提訴 森友事件巡る自殺 
 学校法人「森友学園」に国有地が不当に値引きされた「森友事件」で、公文書の改ざんを迫られ命を絶った財務省近畿財務局の男性職員の妻が、改ざんを指示したと名指しされた佐川宣寿元財務省理財局長と国を相手に18日、総額約1億1千万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。
 提訴したのは、近畿財務局管財部の上席国有財産管理官だった赤木俊夫氏=当時(54)=の妻。訴状などによると、赤木氏は2017年2~3月、森友事件が発覚し国会で厳しく追及されていたさなか、国有地の取引について記した公文書を改ざんするよう繰り返し職場で迫られ、抵抗しても財務省幹部らに押し切られて何回も改ざんをさせられた。
 これが精神的な負担となり、同年7月にうつ病と診断され休職した後も、現場の自分に責任が押しつけられるのではないかと恐れて病状が悪化し、18年3月に命を絶った。
 これについて訴えでは、国だけでなく佐川氏も違法な改ざんを指示した責任がある上、死後に妻が弔問を求めても誠実に回答しなかったとしている。
 提訴後に記者会見した弁護士は、冒頭で妻のコメントを読み上げた。
 「夫が死を選ぶ原因となった改ざんは誰が何のためにやったのか、改ざんをする原因となった土地の売り払いはどうやって行われたか、真実を知りたいです」「そのためには、まずは佐川さんが話さなければならないと思います」
 また、弁護士は「国と佐川氏は誠実に対応し、真相を明らかにする責務がある」と指摘した上で、赤木氏が残した「手記」と題された遺書で名前が上がっている佐川氏をはじめ、佐川氏の後任の理財局長だった太田充主計局長、近畿財務局長だった美並義人東京国税局長など、名指しされたすべての財務官僚らを証人として申請する考えを明らかにした。》(大阪日日新聞

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生前の赤木俊夫さん

 2017年2月以降、財務省の佐川宣寿理財局長は国会で「近畿財務局と森友学園の交渉記録というものはございませんでした」と答弁していた
 翌18年3月2日、朝日新聞森友学園の土地取引をめぐる財務省の決裁文書が改ざんされていたと報道。その5日後、近畿財務局の職員、赤木俊夫氏が自死した。
 3月9日、赤木氏の自殺が報じられると国税庁長官に出世していた佐川氏は辞任を表明。3月12日に財務省は14の決裁文書で改ざんが行われていたと認め、6月4日になって改ざんに関する調査報告書を発表した。しかし、その内容はというと、命令過程について徹底的にぼかされていて、誰がどのように指示をし、いかにして行為に至ったのかまったく書かれていなかった。
 大阪地検特捜部は不起訴処分を決め、公文書改ざんの真相はいまだ明らかになっていない。https://news.yahoo.co.jp/byline/akazawatatsuya/20200319-00168505/

 赤木氏の遺書(手記)があることは漏れ伝わっていたが、きょうの提訴を前に、『週刊文春』がぞの全文を公開した。まさに待ち望まれていたスクープだ。Https://bunshun.jp/articles/-/36667

 きのう買い忘れたので、きょうの午後、近くの本屋に行ったら、売り切れ。あわてて駅の売店などを探してようやく手に入れた。今週号は発売2日で完売したそうで、さすがに関心は高いようだ。

 遺書によると、赤木さん自身が文書改ざんに関わっていた。そして、
 《改ざんは佐川局長の指示を受けた理財局幹部が修正箇所を決め、修正した文書を近畿財務局で差し替えたと指摘。「現場として相当抵抗した」が、本省から出向中の次長が修正、差し替えを行い、計3、4回の修正があったとした。
 改ざんの理由については、佐川局長の国会答弁との整合性を図るためとし、理財局はコンプライアンス(法令順守)が機能する体制にないと批判した。
 改ざん後、心身に支障が生じて休職したとし、「抵抗したとはいえ、関わった者として責任をどう取るか考えたが、今の健康状態ではこの方法を取るしかなかった」と自殺に至った経緯もつづられていた。
 遺書は手書きで「これが財務官僚王国。最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」などと記していた。》(時事)

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「手がふるえる 怖い 命 大切な命 終止府(ママ)」 手がふるえるに下線があり、本当に震えて書いたのだろう。魂の叫びが聞こえるようだ

 佐川局長の指示が、赤木さんを追い込んで自死にいたったことがはっきりとわかる遺書である。
 そして、交渉記録の廃棄と決裁文書の改ざんは、安倍首相の「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」との答弁(2017年2月17日)の直後から始まっていた。
 ということは、すべては首相のこの答弁から発していることが明らかだ。

 『週刊文春』のスクープ記事は、相澤冬樹さんによるものだった。
 このブログで何度も紹介した、「森友学園の問題でスクープを連発したためにNHKから事実上追い出された記者」である。(「NHKのスクープ記者に何が起きたのか」
https://takase.hatenablog.jp/entry/2019/05/26/115716

 このスクープが実現した経緯が興味深い。
 赤木さんが自死した8カ月後の18年11月27日、相澤さんがNHKを辞めたことを知った赤木さんの妻から「会いたい」と連絡があったという。大阪の喫茶店で、妻は夫が書き残した「手記」を相澤さんに見せた。
 実は、妻はその時、夫の「手記」を相澤さんに託して、そのまま夫の後を追うつもりだった。ところが、相澤さんが興奮する姿を見て、妻は「手記」を託すのをやめ、同時に命を絶つのもやめた。
 「私は重要文書入手という記者の仕事をしくじったのだが、知らぬ間に昌子さん(妻の仮名)が自死を思いとどまるという“けがの功名”をあげていたことになる。人生何が幸いするかわからない」
 相澤さんはこう書くが、スクープが人と人とのめぐりあいの過程で生まれることを示す面白いエピソードである。
 それから1年4ヵ月。今年3月7日に赤木俊夫さんの3回忌を迎え、この間の財務省と近畿財務局の昌子さんに対する誠意のない態度が彼女の気持ちを変化させたという。その結果が、遺書(手記)の公開と提訴となったのだ。
 相澤さんが森友問題の取材に全力で取り組んできた末にもたらされた、まさに渾身のスクープである。また、相澤さんとの接点が提訴という結果も招来したわけで、取材が事態を動かしたともいえる。

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安倍首相はまるで他人事のようなコメント

 新たな展開を迎えた森友学園事件をめぐる問題。しかし、麻生財務相は再調査するつもりはないという。
 新型コロナウイルスの騒動で、またこれに蓋をすることがあってはならない。
 市民の関心が頼りだ。
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 きょう、ある出会いがあった。
 西サハラ問題を扱かったドキュメンタリー『銃か落書きか』を観ようと渋谷の映画館に行った。ところが、間抜けなことに、上映時間を間違えて、着いたら映画は終わっていた。
 さてどうしようか、と受付の前の長椅子に座っていたら、隣の男性二人が赤木さんについて議論している。
 ふと見ると、元文科省事務次官前川喜平さんだった。
 尊敬している人でもあり、ご挨拶させてもらった。
 前川さんは夜間中学でボランティアで教えているのを知っていたので、私も夜間中学の番組制作にかかわったことなどお話した。
 おもしろいご縁を感じた。

(「前川前次官の出会い系バー通いの真相」https://takase.hatenablog.jp/entry/20170601