健康保険でPCR検査を

 九段下に用事があったついでに北の丸公園へ。
 清水門展望広場のマンサクが満開だった。和名「シナマンサク」。マンサクにもいくつか種類があるらしい。数少ない寒咲きの花木である。

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 新型肺炎。ついに日本で3人目の死者が出た。
 きのうの段階で、日本の患者数は増え続けて705人。このうち、ダイヤモンド・プリンセス号の3700人中、19日までにのべ3011人が検査を受けて621人の感染が確認されている。
 中国本土の7万4185人以外は、中国との人の行き来がさかんな香港が63人、韓国が51人、台湾24人、タイ35人だから、日本は中国本土以外では感染がもっとも拡大している国ということになる。

 中国では初動こそ政治的な理由でつまづいたが、4億人を「封鎖」するなど他国では真似できない手法で、湖北省以外のほぼ全土で感染者の増加数が減少に転じた。
 日本はこれから感染が拡大する気配だ。
 中国からは「接触感染」、「飛沫感染」のほかに「エアロゾル感染」の可能性が指摘された。飛沫ならくしゃみなどで2m程度の範囲に飛び散りすぐに地面に落ちるが、もっと小さな粒のエアロゾル状だと空気中に漂う範囲が広く、時間も長い。満員電車などの密閉空間は危険ということになる。

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 クルーズ船をのぞく70人の国内感染者のうち感染源が不明な人が33人。これが増えている。どこで感染しても不思議ではないという段階に入ったと見られる。
 新型肺炎は、病気としては致死率からいえば「インフルエンザより少し怖い」程度だが、ワクチン、治療薬がないうえ、日本では検査してもらいたい人が検査できないというおかしな事態になっている。

 また、これから感染が拡大すると医療体制がパンクするのは確実だ。

 テレ朝のモーニングショーが連日新型肺炎の特集を放送している。
 テレビ、ラジオなどの放送がもっとも存在意義を発揮できるのは、地震、台風、大事故などの災害報道だから本来あるべき姿だ。
 3.11のとき、テレビでアナウンサーが「ぜったいに海岸には近づかないでください」と繰り返し真剣な顔で言い続けたことが、数えきれない人の命を救ったのである。
 いま、情報が錯綜し、政府の対策も不信の目で見られているなか、放送でしっかり情報を伝えることはパニックを防ぐためにも必要である。

 今朝のモーニングショーでは「感染爆発にどう備えればいいのか」の第2弾を特集し、具体的な提言をしていた。全面的に賛成できる提言だったので、紹介したい。

 まず、いまの日本の検査体制はきわめて理不尽で不十分だ。
 上(かみ)昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)は、政府は認めないが「かなり流行していると思っている」という。「外来をやっているとよくわからない風邪の患者さんを散見する」からだ。
 問題は、厚労省が作った基準を満たした人でないと検査できないという、とんでもシステムになっているという点だ。
 上医師は、民間企業による検査を促進し、PCR検査をどこでもできるようにすべきだという。

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上医師

 大手製薬会社は、すでに国内用に数万検体分の検査薬を確保していることが分かっている。
 しかし、一日最大3830件しか検査できないと17日に発表されている。民間の検査会社はキャパシティはあるのに、クリニックからの検査の注文を受けない。
 国内大手の臨床検査会社では、国からの(新型コロナウイルスの)PCR検査を受託しはじめたが、民間の医療機関からの検体は受け付けていない
 これはなぜなのか?
 自分たちの基準を満たしたものだけ検査する、かつ検査会社は民間のクリニックから注文を受けてはならないというのは、感染者数を隠蔽していると思われても仕方ない。

 上医師も「理解に苦しむ。むしろパニックを誘発することにもなりかねない」という。
 検査体制をクリニックでもできるようにするためには、PCR検査を健康保険に入れるのが一番いい。そうすれはどこのクリニックも検査会社にオーダーできるようになる。

 保険適用すれば、不安解消にもなるし、研究も進む。

 そのための国からの出費は、仮に検査費が1人1万円として100万人受けても100億円。これで保険財政はびくともしない。医療費全体(42兆6000億円)からすればわずかである。このお金は今年の流行だけで100億円で、来年も再来年もすっと積んでいくわけではない。1回こっきりの100億円の可能性がきわめて高い。
 政府は14日、緊急対策のために153億円の予算を投入することを決めたが、それを検査の医療費に回す検討をすべきだ。

 さらに今後の対策として中国から学ぶこともあると上医師。
 武漢市では10日間で1000床の病院を建設した。症状の重い患者、がん患者や心臓病の患者にうつさないために別の病院に入れたのである。医療設備を建てたことよりも、感染症だから、患者を分けたことに意味がある。


 いま日本の地方には稼働していない病床がたくさんある。去年10月の経済財政諮問会議では、官民合わせて13万床が余っているという。それを利用して隔離病棟をつくる方法もある。
 また、中国では、空いているビルやマンションを政府が借り上げて簡易病院にしているようだ。重症化した人は別だが、病気を他人にうつさないためにはこういうことも考えなければいけない。

 今後、感染拡大で大きな負荷がかかってくると見込まれる。
 毎年インフルエンザで1万人くらい亡くなる。今回は死亡率がより高いので、かりに2~3万人亡くなるとすると、その10倍くらいが「重症」になる。1シーズンで20万人くらいの重症の患者さんが出るとする。
 重症でも自宅でケアできる人もいれば、感染を注意して一般病棟の個室でケアする人もいて、どういうコンビネーションにするかは国が一律に決めたらいけない。
 地域ごとのリソースを使って病院長や地元の医師が連携しながら考えていかなければならない。
 国が全部を決めるのではなく、地域ごとの窮状を聞いて国がサポートする。医者や看護師を急に増やすのは無理なので、実情に合わせた規制緩和も必要になろう。最前線は医療現場になる。国の役割は指示ではなく、ロジスティックス(後方支援)になる。
 重症者が万の単位で出るというのは未経験の事態。地域ごとに対応するしかない。
 2011年の東日本大震災では津波で多くの重傷者が出た。地域では当初の予想と全然違ったことが起きていた。地域をもっともよく知る区長さんや地元の病院長が動いた。
 上医師は当時、仮設住宅などを訪れて被災者の診断に当たった経験があり、ほんとうに地域を知っている人が必要だという。

 一度に何千人もの患者が急に発生して、通常ならパンクだが、そこを乗り越えてきた。
 医療現場は国があって県があって基礎自治体というピラミッドにはなっていない。現場は足りない時は、足りないなりの管理をする。ピラミッドではなくネットワークだ。
 目の前の患者さんをどう助けるかだけでみんなでサポートする。

 

 まとめとして、自治体主体の医療体制」と「民間企業による検査体制の拡充」が番組で提言された。

 

 番組が宮城県のある民間のウイルス検査会社に聞くと、そこでは1日最大200件程度のPCR検査が可能だという。
 2012年1月時点で民間の臨床検査会社は678社ある。単純に各社200件として1日13万件以上になる。民間は万の単位で検査ができると推定できる。

 民間は技術が低いのではという誤解があるが、民間検査会社の担当者は以下のように答えたという。
・国立の研究所と同じような機械を使い同じような精度・速さで検査できると思う。
・国立の研究所と比べてレベルが低いとは思わない。
・大学や研究所で勉強したスタッフがいる。
・民間は他社との競争の中でやっているので、クオリティを保たないと倒産する。

 

 民間の企業にキャパはあるのに、それを使っていない。
 これから感染者が増えていくと、コールセンターに電話などせずにかかりつけの医者やクリニックに殺到するのが目に見えている。
 提言のようにPCR検査をどのクリニックもできるようにし、同時に今から地域で今後の医療体制の分担を決めるなどすぐに手を打ってほしい。