問題を置き去りにした改正入管法

 外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)。安倍政権は、まともな議論を避け、数の力で法案を押し通した。今の外国人技能実習生制度の問題点を隠蔽しておいて追及されると「これから調査する」、新制度の中身は「法律が成立してから省令で決める」、大事なことはみな「検討中」。ひどいな。これなら国会などいらないではないか。
 技能実習生については、野党の調査で問題点が次々に判明。失踪が相次ぎ、今年は上半期で4279人と過去最多だという。法務委員会で立憲民主党有田芳生議員が指摘したように、法務省の集計にもとづけば、2015年〜17年の3年間で、技能実習生が69人死亡、事故や凍死のほか、溺死が7人、自殺者も6人いたことが判明した。

 技能実習生という制度は、建前では、途上国への技術移転をはかる国際貢献ということになっている。しかし実際は人手不足の企業が安い労働力を得るための「横道」であり、国としては、「労働力を入れているのではありません」というウソを覆い隠す制度である。

 問題の一つは、本国に送り出し機関、日本に監理団体という二つの団体があいだに入ることだ。これらの団体は民間であり、保証金手数料などの名目でお金をとる。さらにブローカーも介在しきて、実習生は来日前から高額な借金を抱えることになる。
 一方、日本の受け入れ企業は管理団体に毎月数万円の管理費をおさめる。これは企業にとっては余計なコストであり、実習生を安く長時間働かせる誘因となる。(その管理費分を実習生への報酬に回せばいいのに)
 実習生は一つの受け入れ企業でしか働けず、途中で他の企業に移ることができない。不満があっても、巨額な借金を返すまでは帰国できない。一つの企業にしばられた「労働者」というこの奴隷的な境遇が、さまざまなハラスメントの温床になるのは見やすい道理である。そして我慢できなくなった実習生が「失踪」することになる。
 つまり、現行の制度自体が、はじめから問題を誘発する設計になっている。まさに構造的な問題である。

 韓国は、日本の技能実習生の制度を見習って「産業研修生制度」を導入したが、問題が噴出して07年にこれを廃止した。現行の「雇用許可制」は年間に受け入れる外国人労働者の数を決め、民間の団体ではなく、送り出し国と韓国の政府が募集から受け入れ、研修にいたるまでを行う。韓国に行く労働者は、理不尽な借金を負うことなく、渡航費を負担するだけでよいし、他の企業への転職もできる。ブローカーが暗躍する余地はない。
 その韓国でもさまざまな問題が発生しているのだが、いまの日本よりはよほど「すっきり」している。 
(11月29日テレ朝「報道ステーション」特集「アジア人材争奪戦 なぜ韓国を選ぶのか」https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000141960.html
(「トラブルの絶えない韓国の外国人単純労働者の受け入れ」http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14645?layout=b

 改正出入国管理法のもとでは、政府は「特定技能1号」の半数以上を技能実習の修了者と見込んでいる。実習期間を終える実習生をそのまま日本で働いてもらおうというのだ。「新」制度は屋上屋を重ねるものであり、現行の技能実習生制度の根本的な見直しが必須である。
(つづく)