なぜ安田純平さんは「韓国人です」と言ったのか?“

今朝、あるネットニュースに安田純平についての記事をアップした。
https://www.fnn.jp/posts/00348000HDK
安田さんが先月末に出た映像で、「私は韓国人です」という奇妙な発言をしたが、その意味を独自解釈したものだ。
安田純平はコリアンだとか(私もコリアンだとネトウヨから言われたことがある)、韓国人なら日本政府府は救出しなくてよいとか、心ないネット上のさまざまな意見に私なりに対応したものだ。

ネットにアップされたのが午前10時ごろ。正午には、yahooの「読み物記事」ランキング「国際部門」のトップになっていた。夕方チェックしたら、まだトップ。この問題にかなり関心があることがわかる。
ほんとうは、日本政府がうごかないことでとてもおかしな状況になっていることをきちんと批判しなければならないのだが、きょうはいろいろトラブルなどあって、後日にします。

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なぜ安田純平さんは「韓国人です」と言ったのか?“戦友”が読み解く真の意味
高世 仁


ジャーナリスト安田純平さんの妻が7日、記者会見を開き、公の場で初めて夫の救出を訴えた。
そして、これまで沈黙を守ってきた理由を、安田さんが取材にあたっては、すべての責任は自分にあるという覚悟でいたので「そのような主人の意思を尊重」したからだと語った。
ところが、7月に3回も安田さんの映像が公開されるなど「事態が切迫している」と危機感を持ったため、今回の会見に踏み切ったという。とりわけ7月31日に公開された映像では、オレンジ色の服を着せられた安田さんが、銃を構える二人の黒づくめの男たちの前で「とても厳しい環境にいます。いますぐ助けてください」と訴えており、夫人に大きな衝撃を与えた。

なぜ「韓国人です」と言ったのか?
ところで、この映像の冒頭で安田さんは「私の名前はウマル。韓国人です」という不可解な言葉を発している。彼が日本人であることは夫人も会見で確認しており、韓国人というのは明らかに事実に反する。安田さんはなぜこんなことを口にしたのか。

これまで3年を超える期間を武装勢力に拘束され、あらゆる面で厳しい環境に置かれ続けた安田さんである。考えたくはないが、精神に異常をきたしたとしても不思議ではない。頭が混乱した状態で飛び出した言葉だという解釈もありえよう。
そうではなく、安田さんが正常な判断力を保っているとしよう。安田さんが発したのが、犯人グループに強いられた通りの言葉だとすれば、「ウマル」、「韓国人」は、犯人グループから、映像を見るであろう何者かへの「暗号」だった可能性もあるだろう。

しかし私は、安田夫人の会見を聞きながら、もう一つ別の可能性を考えていた。それは、安田さんが、自らの意思で荒唐無稽な言葉を発し、犯人グループの意図をくじこうとしたというものだ。「助けてください」と言わされているが、それは私の真意ではない、日本のみなさんはこの映像を相手にしないように、というのが安田さんのメッセージだったのではないか。まさか!と思われるだろうが、安田さんを知る者の一人として、私にはそう解釈することがもっとも自然に思われるのだ。

「あんなに怒った夫の顔を見たことがない」
安田さんは、2004年にイラク武装勢力に拘束されたことがあり、自ら危険地に飛び込むとは自業自得だと激しいバッシングを受けている。日本社会で「自己責任」論が蔓延し始めたのはこの時からだった。彼はその経験を『囚われのイラク』という本にまとめ、その中で、自らの厳しい覚悟を披露している。

「『自己責任』を問われれば『覚悟している』と答え」「せめて事前に『何かあっても動かないように』とする文書を家族か第三者に渡しておこうと思う」。

実際、安田さんは夫人に、不測の事態が起きても騒がないようにと言い残して出国した。そして、安田さんが行方不明になったあと、ある写真が公開された。安田さんが「助けてください」「これが最後のチャンスです」と書いた紙を胸の前に掲げている。これを見た安田夫人は「あんなに怒った夫の顔を見たことがない」と語っていた。

2016年5月に公開された写真
命乞いなど絶対にしたくない彼が、意に沿わないことをやらされて憤怒の表情を見せているというのだ。夫人ならではの見方だなと強く印象に残った。これらのことが、私の中で、安田さんの「覚悟」を尊重して3年間沈黙していたという、会見での夫人の言葉につながってきたのである。

安田さんが拘束された翌月の2015年7月、スペイン人ジャーナリスト3人が同じ武装勢力に拘束された。その際、スペイン政府は救済委員会をつくり、交渉により10ヵ月で解放に導いている。
一方、残念ながら、日本政府が具体的な救出に動いているようには見えない。日本政府は国民を保護する義務があり、その無策が「自己責任」論で免罪されてはならない。
安田さんが悲壮なまでの責任の取り方を選び、夫人自ら会見を開かざるを得ないところに追い込まれているのはなぜなのか。問いかけられているのは日本の政府と私たちである。
(執筆:ジャーナリスト 高世仁