ガザの絶望2

 きのう、おもしろい人と知り合った。
 松本裕和(ひろかず)さんという竹細工職人。出身は静岡県なのだが、訳あって大分に移住し工房をもっている。屋号は「+竹」(PLUS CHIKU=プラスチク)。
 竹はもともと人間が必要として移殖することで広まった。(だから竹林は人家の近くにある。)日本でも、さまざまな生活用品が竹で作られてきた。ところが、近代化の過程でプラスチックが竹製品に替わってしまい、竹は使われなくなった。松本さんは、それはもったいない、もういちど竹で作ったものに返ろうと提唱している。屋号はその意気込みを示すものだ。
 松本さんが竹細工職人になるまでには、いくつも職を転々とし、自衛隊に入ったこともあった。「本物」を作る仕事をしながら持続可能な暮らしをしたいと、工房兼住居として150坪の土地付き家屋を150万円で購入し、野菜を作り鶏を飼い養蜂までやっている。

 お近づきのしるしにと「情熱大陸」で取材した山勢拓弥さん(http://d.hatena.ne.jp/takase22/20180206)がバナナペーパーで作った名刺入れをプレゼントしたら、松本さん自作の竹の鍋敷きをいただいた。いいですね。時代の最先端に松本さんはいると思う。いつか大分のお家を訪ねてみたい。
 彼のように、「根っこのある生きかた」を求め、志をもって田舎に移住する人が、私の周りで増えてきた。映画『おだやかな革命』(https://www.youtube.com/watch?v=On8rj2q7hOM)を地で行っている。
 2014年度の地方移住者数は1万1735人で、09年度からの5年間で4倍以上に増えている。https://mainichi.jp/articles/20151220/k00/00m/010/063000c
 2014年に東京都在住の18〜69歳の1200人を対象に行ったインターネット調査「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」では、男女とも十・二十代で移住する予定又は検討したいと回答した人の割合が46.7% にもなっている。https:/ / children.publishers.fm/article/11081/
 時代は動きつつある。これについてはあらためて書こう。
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 藤原亮司さんの『ガザの空の下』の続き。
 2008年末からのイスラエルによるガザ侵攻(ガザ戦争)直後、09年1月に藤原さんは取材に入った。イスラエル軍が来たとき、家族を避難させ、カラシニコフ小銃を手に家を守ろうと残った男たちが村に何人かいて、殺された人もいるなか、無傷で捕まり村を追いだされた人もいた。助かった「彼は幸運だったね」と藤原さんが言うと、「幸運なもんか。あいつは死にたかったんだ」との声が男たちから返ってきた。戦車やヘリ相手に小銃一丁で何もできるわけもない。
 《その行為が自殺のためだと聞かされ、これまで気付かなかった自分の浅はかさに愕然とした。
 「ガザでいちばん弱いのは女でも、老人でもなく男たちだ」と、取材に同行してきたサミールが口をはさんだ。
 「今じゃ父親が仕事に出かける姿を見たことがない子どもばかりだ。親戚や友人の家をハシゴしては水煙草を吸い、紅茶をすすって時間をやり過ごす。毎日をだらだらとお喋りに費やし、メシを食って太る。その食事も男たちが働いて得た食べ物じゃない。ファタハハマスや国連か、海外の支援団体から“恵んでもらった”ものだ。服も煙草も、子どもにあげる少しの小遣いさえそうだ」
 多くのガザの夫や父親は、妻や子、老いた両親に何の庇護も与えてやることができない。かつてガザにイスラエル軍がいたときのように、家族の目の前で殴られ、地面に引きずり倒されて辱められることはなくなった。しかし、男を売ることが威厳につながるイスラム世界で、今や直接的に自分や家族を脅かす敵もいないガザで何もせず(できず)、友人との馬鹿話でヘラヘラと笑い、毎日をやり過ごすだけの暮らしに、男たちは心の中でやり切れないほどの屈辱を感じていた。
 「久しぶりにイスラエル軍が殺しに来てくれたんだよ。なのにあいつは、また死ねなかったんだ」。》(P232-233)

 近年はイスラエル軍のガザへの攻撃は、「見えない戦争」になっている。
《2014年7月8日から50日間続けられた、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの進攻、「プロテクティブ・エッジ(境界防衛)作戦」。この攻撃により2100人以上が死亡、負傷者は1万千人を超えた。また、家屋の破壊・損傷は1万八千棟に上り、約11万人が避難民となった。》
 この大規模攻撃をハマス軍事部門のある小隊長がこう振り返る。
《「今回の戦いが2008~09年の侵攻ともっとも違うのは、イスラエル軍の姿が見えないことだ。無人攻撃機やF16からの空爆と、遠方からの砲撃。イスラエル軍兵士や戦車を、我々レジスタンス兵士以外はほとんど見ていない。アパッチ(攻撃ヘリ)さえ、今回の戦争では見たことがない。遠くから飛んできたミサイルで突然殺され、家を壊される。イスラエルがやっているのは、まるでマンガの戦争だ」》(P269-270)
 つねにドローンで見張られ、いつなんどき空から殺されるか分からない日常。戦闘というより一方的ななぶり殺しで、イスラエル兵の死傷は激減。攻撃があってもニュースにならなくなってきている。
 ガザにはこれまでにない閉塞感が漂っているという。
(つづく)