情熱大陸「山勢拓弥」制作メモより2

 立春も通行止めを食らってる (今朝の朝日川柳より 茨城県 清水方子)
 夕刊に「北陸大雪 1400台車中で一夜」の見出しが。極寒のなか、節気は「大寒」を過ぎてもう「立春」。節分の翌日の立春は、旧暦では一年の始まりとされていた。
 2月4日からが初候「東風解凍」(はるかぜこおりをとく)、次候の「黄鶯睍薭」(うぐいすなく)が9日から、14日からが末候「魚上氷」(うおこおりをいずる)。寒さは厳しいが、少しづつ生き物が目覚めてくる。
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 私がゴミ山を初めて見たのは1985年、フィリピンのマニラでだった。すさまじい臭気に喉にあがってくる胃の内容物を飲み下しながら撮影したことを今も思いだす。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20071011
 「開発」という名の近代化は、農村から都市への人口移動と同時に膨大な廃棄物を生み出す。マニラのゴミ山では、農村で食えなくなった人々が掘立小屋に住み、老若男女、子どもまでが、ケガや病気のリスクに晒されながら、リサイクルできるものを漁っていた。

(アンルンピー村のゴミ山で働く人々)
 今回の情熱大陸「山勢拓弥」の取材地、シェムリアップは、世界遺産アンコール遺跡の観光拠点として、ここ20年で爆発的な発展を見せている。そこから出る廃棄物は、農地が広がる郊外のアンルンピー村の集積場に運ばれる。分別されずに積み上げられたゴミ山では、村人の1割が分別作業に携わっている。粉塵のなかでの作業は体に良くないし、ガラス破片や注射針などの医療廃棄物もあって危ない。重機の事故で大けがする人もいる。
 農業だけでは収入が不足する。だが農業以外にこれといった仕事がない。そこで山勢さんは、雇用を創出するため、14年12月からバナナの茎を原料にした紙の商品化事業を立ち上げた。工房は村に置かれいま9人のスタッフを雇用する。和紙の製法をヒントにバナナから紙をつくり、その紙でバッグやポーチ、パソコンケースなどの小物を製品として仕上げている。
 この事業が優れている点は、まず原料が廃棄物だということだ。バナナは「木」ではなく「草」で、実は一度しか成らない。実を採ると茎は不要となる。村のどこにでもあって、家畜の餌にするくらいしか使いでがないバナナの茎はエコな素材なのだ。
 また、繊維を細かく切るなど、機械を使った方が効率がよい工程もある。しかし、雇用をつくるという目的から、あえてハサミでの手作業にしている。

 その他、私が「いいな」と思ったポイントを二つ挙げると;
 一つは拓弥君(ここから君付けで呼ばせてもらう)の事業に向かう基本的な姿勢である。彼は「農村開発」がうんぬんだの、「貧困問題」の解決だのという大上段から入っていない。
 拓弥君いわく。「僕は単純です。友だちになった村の人に聞いたら、村に仕事がないという。だったら村に仕事を創って友だちのためになりたいと思った」。
 実は、拓弥君、ゴミ山で1ヵ月間、みんなと一緒に悪臭にまみれて自らゴミ拾いをやっているのである。こうした人と人との直の触れあいのなかから「友だちのために」何かやりたいという強い気持ちが生まれてきたのだろう。

(ゴミ山で働いていたころの拓弥君―番組より)
 私は、東南アジアに10年住んで、たくさんの日本人ボランティアを知ったが、大上段の理屈を掲げて始める人ほど挫折するのを見てきた。だから、彼の動機づけが印象的だった。
 次に感心したのが、ブランド化の方向付けである。バナナだけで作った紙は水に塗れると破れるし縫製などの加工に向かない。拓弥君は、リサイクルのプラスチックを混ぜて防水にするとともに強度を高める工夫をした。そして”Ashi”というブランド名をつけた。これは「亜紙」、つまりアジアから世界に発信しようという心意気を示している。
 いま、拓弥君は日本のデザイナーによるデザインを印刷した新製品を開発し、イタリアのデザイナーとの提携も進めている。途上国で住民生活の向上のために作られた製品が、「かわいそうな人たちを助けましょう」と義理や同情で買われるのではなく、製品そのものの魅力で勝負しようというのだ。新製品は、アンコール寺院のレリーフにインスピレーションを受けたデザインで、自然素材特有の懐かしい素材感と相まってとてもおしゃれな商品に仕上がっている。

(右がこれまでの無地の製品、左の二つがアンコール文化にモチーフをとった新製品)
 同時に拓弥君は、製品が作られた背景、作業場の実態をもアピールしようとしている。1月23日にオープンした2号店には、ゴミ山の実態や工房の様子などを写真で展示していく予定だ。工房には、ゴミ山の不潔で殺風景な労働現場とは異なり、互いに信頼し合えるくつろいだ空気が流れている。子連れでの作業もOK。ゆったりと、そして生き生きと働く女性たちの姿がある。そんな工房で作られていることを知ってもらうことで、購入する人は、他の製品とは違った愛着と誇りを持つようになる。これは、「働き方」そのものをブランド化することになる。
 私は以上のようにブランド化を二方向で理解したが、実現すればすばらしい。
(つづく)