アジアプレス設立30周年イベント2

 稲田防衛相が辞任し、黒江哲朗防衛事務次官、岡部俊哉陸幕長ら5人が懲戒処分を受けたきょう、夜11時42分ごろ、北朝鮮がミサイルを発射したとのニュースが入った。いま(29日の)1時17分だが、菅官房長官が二度目の会見を行っている。
 夜のニュースでは、これは日本の防衛省の混乱のタイミングを狙ったものか、などと専門家に聞くキャスターがいたが、「戦勝節」(朝鮮戦争休戦協定調印記念日)のきのうに予定していたのをおそらく天候のせいで延ばしたのだろう。以前から書いているとおり、核ミサイル開発に邁進する北朝鮮としては、ミサイル発射ごとに政治的思惑を込めることは考えていない。ひたすら性能に改良を加え、どんどん脅威を高めているというのが冷厳な事実だ。
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 きのう観たアジアプレスのドキュメンタリー2本のうちの1本は、玉本英子さんの『ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性』で、見ごたえがあり、大いに学ぶものがあった。
 タリバン政権下のアフガニスタンで、ひとりの女性が公開銃殺刑になった。夫殺し、売春、不倫。その女性、ザルミーナの周辺からアフガンの闇が見えてくる。「母は処刑されて当然」とザルミーナの娘は言う。処刑までの日を追いながら、売春婦や強姦された女性を取材。ザルミーナを公開処刑にしたのはタリバンだが、死を突きつけたのはアフガニスタン社会であることが明らかになる。》(チラシの説明文より)
(銃殺直前のザルミーナ)
 この銃殺刑は隠し撮りされ世界中で公開された。タリバンの人権無視、残虐さを示すものだと欧米メディアが非難し、アフガン攻撃の根拠にまでされたという。
 これに、玉本さんが実に粘り強い取材を重ねて真相に近づいていく。「よくもこんなものを取材できたな」と何度も感嘆させられた。処刑されたザルミーナの子ども、母親、殺された夫の兄、処刑に立ち会った刑務官を探して証言をとり、最高裁判所の資料室になんと1ヵ月通ってついにザルミーナの裁判記録を見つけだす。こういう取材は、商業ジャーナリズムで仕事をする我々にはとてもできない。
 ザルミーナは内戦で家を追われ避難先で強姦されていた。その後売春するようになり、近所の男と姦通もしていた。それを夫が知り、タリバンに言いつけて「石打ちの刑」(村人から死ぬまで小石を投げつけられる刑罰)にしてやると脅されたため、恐怖で夫を殺したという事情が取材から見えてくる。
 一方で、理由はどうあれ、強姦された女性、売春婦、不貞の妻などは、まともに人間扱いされない社会の現実も丁寧に取材されている。長女が「お母さんが処刑されてよかった」とたんたんと語る姿には驚かされたが、地方の共同体の倫理の中核には「一族の誇り」が強固にあるのだ。
 すべては「タリバンの悪」というステレオタイプの欧米の見方を、取材でひっくり返していく、切れ味鋭い正統派ドキュメンタリー。タリバンをやっつければみんな解決するということではないことが深く理解できる。
 翻ってみれば、これはアフガンだけに限ったことではない。社会の実相を描くドキュメンタリーは、IS(イスラム国)を追い払えば、「テロリスト」がいなくなれば一件落着といった単純な思考法に根底から異をとなえて我々を成長させる。
 困難のなか、いい仕事をしているフリージャーナリストに敬意を表したい。