「懐かしい未来」再読7

 イラク軍幹部がモスルのIS(イスラム国)制圧は数日以内と発表した。
 イラクとシリアでのIS勢力の後退の一方で、いま、日本のすぐ近くで、ISとの激しい戦闘が進行中なのだが、ご存じだろうか。
 フィリピンでは、5月下旬から、ISに忠誠を誓う「マウテ・グループ」が、ミンダナオ島のマラウィ市を占拠。ドゥテルテ大統領は、ロシア訪問を途中で切り上げ、5月23日にミンダナオ全島に戒厳令を発令した。町の人口のほとんどは市外に避難した。米特殊部隊の支援のもと、国軍が激しい戦いを続けるが、戒厳令から1ヵ月たった今もなお、町を奪還できていない。
 ミンダナオ島はながくイスラム反政府勢力が武装闘争を続けてきたが、日本がフィリピン政府と反政府勢力の仲介をして停戦に貢献したのだった。日本外交のまれな成功例である。なお、今回の「マウテ・グループ」は、政府と停戦したイスラム勢力ではない。
 両国の関係は、距離的に近いだけでなく、政治的、経済的な結びつきも緊密である。日本からの投資も多く、企業進出もさかんだ。フィリピンからの来日ツアー客は近年、年3割増しの勢いで急増している。
 そのフィリピンでISとの戦争をしているのだから、大変な事態なのだが、日本のメディアはあまり報じていない。

 この戦闘にVICEという通信社が従軍取材し、動画を配信している。このVTCEはISのいい映像も撮っており、「最前線にVICEあり」と言われる。しかも、ダナオ市街戦のリポーターは、可愛い若い女性なのだ。彼女が前線を兵士と一緒に文字どおり駆け回り、ナレーションを読む。戦場取材でスクープをとってやろうという意気込みも感じられて新鮮である。これだけ迫力のある戦場映像はなかなかない。ぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=r2p94EElf40


 激しい最前線の戦闘シーンを「かわいこちゃん」(古いな)がリポートしていくのを観ていると、不思議な感覚になる。深層の性的なものを刺激されるのか。かつて藤原紀香が、胸の谷間を思い切り見せながらK1の試合を実況するのをうっとり観ていたのを思い出し、「闘いと性」というフレーズが頭に去来した。


 いかんいかん、余計なことを考えてしまった。フィリピンの事態についてはまた追って書こう。
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 シリーズ「懐かしい未来」。きょうは、ラダックに起きたことは日本がかつて歩んできたことに重なるという話。

《世界に共通する近代化》
 どの社会でも、新たに伝播してきた異文化は取捨選択されて取り込まれる。レーは何世紀ものあいだアジアの通商の中心地のひとつであり、ラダックの人たちも異文化を受け入れて自分たちの文化を豊かにしてきた過去がある。
 しかし、ここに見る開発=近代化=西洋化は、ラダックの社会に取捨選択の余裕を与えず、抗いえない圧倒的な力で「生活様式全般の組織的な変化」をもたらしている。ヘレナは、この動力の源が「経済」にあるとし、「西洋が経済発展に固執することによって、他の国にも「発展」するよう圧力がかかる」と表現している。
 渡辺京二は、明治維新を、「西洋モデルの近代化のコース」が「全世界的スケールで、一種の緊急避難のような切迫した要請として立ち現れた」現象のひとつとして描くが、ラダックに押し寄せた近代化の波も同じであり、その結果として生じる問題も共通なのである。
 ヘレナの描くラダックの伝統社会は、渡辺の『逝きし世の面影』で西洋人に「パラダイス」と称えられた幕末の日本と非常に似ており、また、「開発」の結果現れた情景は、現在の私たちの暮しにつながっているように感じられる。
 ヘレナはこう書いている。
 「西洋に毎年戻っているうちに、経済的、技術的な変化の圧力が私たちの文化にも同様の影響をおよぼしていることに気づくようになった。私たちもまた「開発」にさらされているのである」。(191頁)

(つづく)