偽ドル摘発大作戦の舞台となったトランプ城下町


苔むした石仏に紅葉が散りかかる。
 いいですねえ。これはかみさんが根津美術館に行って、その庭で撮った写真。私もこの美術館には行ったことがあるが、庭にこんなすてきな石仏があるとは知らなかった。調べると如意輪観音だという。観音様は千手、馬頭などあらゆる形に変化するが、如意輪観音は手を頬に当てて思惟している。
 ロダンの「考える人」も頬杖をしているが、東西で頬杖=思惟という一致はどうしたことか。人種、民族を超えるヒトの生理によるのか、それともしぐさが文化として伝播したのか。かなり多くの民族で、首を縦に振る動作がイエスの意味になるのはなぜか、など、写真を観ながらあれこれ考えて楽しんだ。こんど、この石仏を見に行こう。
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 きのうの続きで、アメリ東海岸のカジノの町、アトランティックシティ。
 カジノが集中する通りを夜歩くと、けばけばしい巨大なネオンサインにおぼれそうだ。一見金が回っているようなのだが、そこからほんの数分歩くと、スラムかと思うような貧困層の居住地があった。町全体から殺伐とした雰囲気を感じる。カジノの町というと、華やかなイメージで宣伝されるが、決していいものじゃないな、と思った。
 この町はまた、トランプの町としても知られ、彼の名を冠したカジノ・ホテルがいくつもあった。トランプは、私のような有能な経営者こそが米国を再生できるなどと言っているが、実は経営センスが全くなく、多くの企業を破たんさせながら個人の財産を築いたとの指摘がある。そのとき必ず持ち出される一つがカジノ事業で、この町に展開した「トランプ・タージマハル」、「トランプ・プラザ・カジノ」など多くのカジノホテルが経営破綻している。http://rollingstonejapan.com/articles/detail/25659/3/1/1
 「トランプ・マリーナ」もすでに身売りされて今はGolden Nuggetと名前も変っている。さっきネットで予約サイトを見たら、客が少ないのか、かなり広いデラックスルームでも1万円ちょっとで泊まれる。私の泊まった2006年にはまだ、「トランプ・エンターテインメント・リゾート社」が運営していた。部屋数700超、ゲームスペース7000平米(70m×100m!)という巨大なカジノ・ホテルだ。酒瓶の並ぶバーコーナーのあるスイートルームは40〜50人の宴会ができそうなほど広い。ゴージャスなバスタブ(美女がシャンパンを舐めながら入る絵が浮かぶような)につかりながら落ち着かなかった覚えがある。
 実は、このスイートで再現シーンを撮影し、俳優さんたちが、ふかふかのソファーでマフィア役を演じていた。撮影のあともったいないからと分不相応ながら泊まったのだった。
 この町は2005年8月、FBIによる大がかりなおとり捜査による「ロイヤル・チャーム作戦」という大捕物の舞台になった。59人を一挙に逮捕し700万ドル相当の精巧な偽ドル札や偽タバコなどを押収したこの捕物は、米国捜査史上前代未聞の大作戦だった。
 直後の9月15日、米国財務省マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」に金融制裁を科した。8月の事件は、対北朝鮮金融制裁発動の引き金になったのである。
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 私は、北朝鮮に対しては、輸出入などのモノの出入りに制裁をかけるより、金融制裁が効果的だと以前から考えており、金融制裁真っ最中の2006年暮れ、『金正日「闇ドル帝国」の壊死』(光文社)という本を出した。アメリカの金融制裁にエールを送る内容で、徹夜に次ぐ徹夜で緊急出版にこぎつけたのだが、本が出るのと機を一にして米国が急に腰砕けになり、翌2007年2月には、北朝鮮寧辺の核施設を無能力化する見返りに記入制裁の解除を発表、そのうえ、重油約100万トン相当のエネルギー支援を行うと北朝鮮と合意してしまった。
 私は、近年最大の米国の判断ミスの一つがあのときだったと思う。ギリギリまで北朝鮮は追い詰められていて、「もう一押し」だったのに。
 というわけで、当然、本は売れなかったのだが、いま、再び対北朝鮮金融制裁の機運が出てきたので、金融制裁とはどんなふうに効果的なのかを書いてみたい。