「頭で食べる」のをやめよう

夜、空を見上げると満月。
このところ雲が多く、久しぶりに見る月だ。

11日のEテレ「SWITCH インタビュー達人達」は料理研究家枝元なほみさんとノンフィクション作家で探検家の高野秀行さんで、とても面白かった。高野さんは『謎の独立国家 ソマリランド』など多くの辺境にかんする著作があり、昔、ミャンマー・中国国境のワ族の取材をしていたころ、バンコクで会ったことがある。番組で彼が語ったことは、すぐれた文明評論としてうなってしまった。また、枝元なほみさんの今の日本の「食」についてのコメントは、私がつねづね感じていた疑問をずばりと指摘し、胸がすく思いがした。

資本主義はとにかくモノを売らないといけないから、不必要なものを消費者に「必要だ」と思うようにさせる。「フツー」のものではダメで、次々に新たな工夫をこらしたモノを買いなさいと洗脳する。グルメと長寿・健康の情報をひっきりなしに浴び続けている私たちである。以下は、「食はもっと野蛮なもの」と主張する枝元さんの番組での言葉である。

「私たちは頭で食べている。お金が高いとか安いとか、有名だとか有名じゃないとか、名だたる料理人のものだとかそうでないとか。(略)
(普通の料理を)なにか特別なもの、頭の中で考えた付加価値みたいになっちゃって。あと栄養とか、ダイエットしたいとか。そういう呪縛みたいなものから解き放たれたいんですよ。私たちはほんとにガンジガラメになっちゃってる気がするから。もっと大らかなところ、大らかな力に引き戻したい。」

もっと野蛮でいい、か。いいですね。私は、枝元さんが『ビッグイシュー』に毎号登場するので知るようになった。なぜホームレス支援の雑誌に料理コーナーがあるのかと思っていたのだが、実は、彼女、「ビッグイシュー基金」の理事を務めているという。また、形が悪いなどの理由で捨てられてしまう野菜を流通に乗せる活動や、東日本大震災被災者への支援なども行っている行動派である。
枝元さんは若い頃、劇団に所属していて、そのまかないをやったことから料理の道に入ったそうで、学校や師匠に学んだり特別なトレーニングを積んだりしたことがないという。つねに普通の台所に立つ人の目線に立つのはそんな経歴も影響しているかもしれない。

「『食べる』と『生きる』がくっついている。専門的な、磨いていく、道を究めていく料理じゃなくて、『道ない!』っていうところでやりたいことが家庭料理だから。暮らしの中で普通にある料理をしたい。どういう暮らしの中で料理を作るかを想像する。暮らしている人とつながりたいなら等身大の自分をちゃんともっていく。」
(かたちの悪い野菜が大量に捨てられることについて)
ミスユニバースみたいな野菜ばかりが売れていて、どうしてブスじゃいけないんですか?その良さを見ないと、バチ当たるんじゃない。(野菜を)作ってくれる人にリスペクトを持ちつつ、料理を台所で作る私たちがつながっていける、ともに支えあう。」
「食べていく力、生きていく力みたいなもの、取り戻そう日本人! アハハ」
ミスユニバースみたいな野菜」には笑った。
枝元さんは、いつも笑顔でやさしい言葉で語るが、ラディカルに物事をとらえている人だ。今の社会の病巣を食という視点でみごとに突いて、いちいち頷かされた。