タイ国王の死を悼む

タイのプミポン国王が88歳で亡くなった。
タイは、21世紀になってもクーデターが起きる国である。実は、いまもタイは、2014年のクーデターでできた軍事政権が続いている。しかし、立法、行政、司法が混乱をきたしても根底で国民の心の支えになってきたのは、王室の存在だった。いわば国の重し、あるいはつっかい棒が国王だった。私はタイに長く滞在するうち、この国の発展段階は、国王をどうしても必要とすると肌で感じるようになった。
問題は次の国王だ。王位継承者、ワチラロンコン王子(64歳)は素行の悪さで知られ、今年もドイツを訪問したさいの写真が欧州のネットに出て、騒ぎになったばかりだ。



空港の赤じゅうたんに降り立ったのは、何とも形容しがたい格好の王子と愛人の一人、そしてプードル。8月にタイに行ったとき、友人から、みなひそひそ話でこのスキャンダルを噂し合っていると聞いた。
 タイ政府はこの写真が捏造であるとし、言論弾圧事件も起きている。
《【バンコク時事】タイ警察は22日、英国人記者がソーシャルメディア上で共有したワチラロンコン皇太子(63)のものとされる写真をめぐり、記者のタイ人妻の身柄を拘束した。警察は不敬罪など違法行為に当たる疑いがあるとみて事情聴取した結果、妻は無関係と判断し数時間後に釈放した。
 問題とされているのはドイツ大衆紙ビルトが最近ウェブサイトに記事と共に掲載した写真。元ロイター通信記者でタイ王室に批判的な著作で知られるアンドルー・マクレガー・マーシャル氏が21日、フェイスブックなどで共有していた。地元メディアなどによると、タイ警察は22日、写真が「改ざんされていた」と主張、首都バンコクの実家にいた妻を連行した。
 マーシャル氏はフェイスブックを通じ「私と結婚しているという理由だけで無実の女性に嫌がらせをしている」とタイ当局を批判。妻の釈放を訴えていた。》(2016/07/22-20:24)
 
捏造、改竄かどうかはさておき、この手の王子の素行の悪さは知れ渡っているから、国民はこの写真が本物であると思っている。

反対に次女のシリントーン王女は絶大な人気を誇り、どんな田舎に行っても家々に王女の肖像やカレンダーが飾ってある。実は、彼女にも王位継承権がある。国民の圧倒的多数は王女の即位を願っているはずだ。即位をめぐっての混乱があるかもしれない。

日本の新聞も識者を引用しながら、遠慮がちに指摘する。
《【岩佐淳士バンコク西脇真一】タイは14日、プミポン国王(88)の死去を受け1年間の服喪期間に入った。長男のワチラロンコン皇太子(64)に王位が継承される方針が速やかに示され、国内に混乱は起きていない。だが、皇太子が国王としてどのような治世を行うかは不透明で、人々は王位継承をめぐる動きを固唾(かたず)をのんで見守っている。
 プラユット暫定首相は13日夜、テレビ演説で皇太子が即位すると明らかにした。2014年のクーデター後に制定された暫定憲法によると、内閣の通知を受けた暫定議会議長が議会を招集し、皇太子に即位を要請。その後、国民に公示する手順になっている。
 現軍政は、皇太子への王位継承をにらんだとみられる動きを進めてきた。皇太子は昨年、国王とシリキット王妃(84)の誕生日を祝う2度のサイクリングのイベントを実施することで、国民に対し存在感をアピール、プラユット氏らも参加して協力した。
 ただ、プラユット氏は皇太子に拝謁後、記者団に皇太子が「国民と共に哀悼する時間を持ちたい」と、即位を遅らせるよう求めたと述べた。チュラロンコン大のチャイワット・カムチュー教授は「悲しみに暮れる国民の感情に反することになるので、王位継承を急がず、時間を置くのはよい判断だ」と話す。
 しかし、王位継承をめぐっては国民に人気の高い次女のシリントン王女(61)を推す声もあったとされる。軍、政府内部は一枚岩とは言えず、別の政治学者は「『シリントン派』を警戒する皇太子周辺にとって王位継承まで空白期間が生じるのは得策ではないはずで、意図が読めない」と言う。憲法では、即位要請などがなされていない間は枢密院議長が暫定摂政を務めることになっている。
 ワチラロンコン皇太子は1952年にバンコクで生まれた。英国の高校、豪州の陸軍大学を卒業し、75年に陸軍情報局の軍人として公職に就いた。90年11月に天皇陛下即位の礼が行われた際に来日したこともある。ただ、海外に滞在することが多く、王室関係の行事ではシリントン王女の方が存在感を示してきた。皇太子は3度離婚し、女性スキャンダルが伝えられたこともある。
 タイ政治に詳しい浅見靖仁・法政大教授は「王位継承をめぐり水面下で何が行われているのかが見えづらく、皇太子が国王としてどう振る舞うかも未知数だ。王室をよりどころにした『国体』が揺らげば、現軍政が不安定化したり、経済に悪影響が及んだりする恐れもある」と指摘する。》(毎日新聞)/span>

テレビで、多くのタイ国民が泣いている様子を見たが、その涙には、信頼する国王の死への悲しみとともに、「これからこの国はどうなってしまうんだろう」という大きな不安が入り混じっているのではないかと想像した。
タイは私が7年にわたって住んだ第二の故郷で、行く末を心配している。