南スーダンの危機に自衛隊はどうする?

 内戦と停戦を繰り返してきた南スーダンで、再び大規模戦闘が勃発した。
 これは大変な問題をはらんでおり、もっと大きなニュースとして取り上げられるべきだ。
 現在日本が唯一自衛隊を送っているPKOは、南スーダンの国連南スーダン派遣団(UNMISS)だ。そしてこのPKO、自衛隊にとってもっとも危ないものであることが一気にあらわになり、自衛隊員に犠牲者が出る可能性が大きくなっている。

南スーダンの首都ジュバの国連施設に身を寄せる女性や子供ら=国連南スーダン派遣団が11日提供】
 まず現地の状況から。
 南スーダンの首都ジュバの市内数か所で10日、サルバ・キール大統領を支持する政府軍とリヤク・マシャール第1副大統領派の反政府勢力との間で激しい戦闘が再発し、数千人が避難した。南スーダンでは8日にも短時間ながら火器による激しい交戦があり、双方で推定計150人が死亡していた。10日の戦闘による死傷者の詳細は不明。南スーダンは前日の9日に建国5周年を迎えたばかりだった。2013年12月に始まった内戦の終結に向けた和平交渉は難航しており、戦闘再発は新たな打撃となった格好だ。国連(UN)によると迫撃砲や携行式ロケット弾、地上攻撃用の重火器が使用され、武装ヘリコプターや戦車も展開したとされる。》(7月11日 AFP)

 死者は300人に迫っていると伝えるメディアもある。米国は、ジュバの米大使館から緊急業務を担当する人員を残して駐在員を退避させた。民間の航空便は欠航となり、日本政府は11日、NSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開き対応を協議、在留邦人の退避を支援するため、航空自衛隊小牧基地所属のC130輸送機3機を近隣国のジブチへ派遣することを決めた

 まず、恐いのは、ヘリや戦車も出動し300人死亡かという激しい戦闘が続き、邦人退避のために自衛隊機を派遣するという事態にもかかわらず、日本政府がなお「武力紛争ではない」と強弁していることだ。いつもながらとはいえ、あきれる。
 官房長官いわく、「わが国のPKO法における武力紛争が発生をしたとは考えておらず、いわゆる参加5原則が崩れたということは考えていない」(11日)。
 PKO5原則には参加条件に「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」があり、そこが崩れれば「撤収することができる」とされる。だから、自衛隊駐留を続けるためには、どんな事態になっても「武力紛争」だと認めるわけにはいかない。あえて現実に目をつぶるのだ。非常に危険なことである。

 内戦となれば、逃げ惑う人々は国連に助けを求めてやってくる。すると、避難民の中に対立する勢力がいるとして武装部隊が攻撃を仕掛けてくる。いきおい国連のPKO部隊と衝突することになる。実際、今回もPKO部隊から犠牲者が出ている
 《現地の国連平和維持活動(PKO)本部は11日、ジュバのPKO施設に隣接する避難民キャンプ周辺で10日から11日にかけて戦闘があり、67人が負傷、うち8人が死亡したと発表した。》
 キャンプはPKO部隊の保護下にあり、周辺ではヘリコプターがロケット弾を発射するなど激しい交戦があった。ジュバにある2カ所のPKO施設には、新たに7千人以上の市民が保護を求めて退避してきたという。この戦闘に巻き込まれて中国とルワンダのPKO要員に死傷者が出た。(中国兵1名が死亡との情報) 

 実は、日本ではあまり知られていないのだが、国連PKOは近年その任務を大きく転換している。この転換のきっかけは、旧ユーゴやルワンダで、国連が市民の虐殺を防げなかった反省だった。
 1994年、ルワンダで100万人の虐殺があったが、国連PKOは「中立」を標榜、虐殺を止められなかった。この反省から、99年、アナン事務総長が「国際人道法を遵守せよ」とPKO要員に指示した。
 国際人道法とは、そういう名前の条約があるわけではなく、「武力紛争(戦争)において、負傷したり病気になった兵士、捕虜、そして武器を持たない一般市民の人道的な取り扱いを定めた国際法」で、具体的には「1949年のジュネーブ四条約」、「1977年の二つの追加議定書」「2005年の第3追加議定書」など、さまざまな条約と慣習法の総称。つまり戦争のルールである。
 国連が、PKOに対して「中立の立場を捨て、紛争当事者として戦争法規を守れ」という趣旨を通達しているのである。伊勢崎賢治氏)
 PKOは「自衛以外の武器使用を認めない」というしばりを取り払い、いまや文民保護のために武器使用を認める「積極的PKO」になっているのだ。コンゴ民主共和国では、PKO部隊は、住民保護に必要ならコンゴ国軍や警察に対して武器を使用してもよいとされている。政府が不正をすることがあるからだ。さらに、PKO部隊が先制攻撃をしたこともある。これを言うと、みな、国連が先制攻撃?ウソだろう・・と驚くが、これが今のPKOである。カンボジアPKOのころの牧歌的な(と言っても文民警察の高田警部補や国連ボランティアの中田厚仁さんが殺されたが)イメージとは全く違うのだ。

 だから、今回の南スーダンの戦闘勃発を受けて緊急に開かれた国連安全保障理事会は、「状況は危機的だ」として、現地に派遣している国連使節団の増強を検討、南スーダンの周辺国に対して、現地に兵士を追加派遣するよう求めた
 状況が緊迫したから「撤退」、ではなく、逆にPKO部隊を「増強」するというのである。

 この変化したPKOの「イケイケ」路線にあって、これまでPKOで一発も銃を撃ったことがないことを誇りにする自衛隊が、いま激しい矛盾のなかに置かれているのは明らかである。
 しかし、このことを民進党など野党もほとんど追求していない。
 それはなぜか。
(つづく)