韓国の女傑逝く

登山家の谷口けいさんが亡くなった。
NHKの昼のニュースで知った。

21日午後2時50分ごろ、北海道の大雪山系黒岳(1984メートル)を登山中、山頂付近で用を足すためロープを外し仲間から見えないところへ移動した後に滑落。悪天候のため捜索が難航し、翌22日午前中に心肺停止の状態で発見されたという。
谷口けいさんは、日本のトップクライマーの一人で、2008年には、インドのカメット未踏ルートの南東壁からの登頂に成功。優れた登山家に贈られるフランスの「ピオレドール賞」を彼女のクライミングパートナー、平出和也さんらとともに受賞。女性としては初めての受賞だった。
平出和也さんも日本を代表する超一流の登山家で、カメラマンでもある。高山など危険地での撮影では第一人者で、うちの会社でも、オーストラリアで「グレートネイチャー」という番組を制作したさい、撮影でお世話になっている。「情熱大陸」でサバイバル登山家、服部文祥さんを同行撮影し、沢で滑落した服部さんを救出したというエピソードがある。
お悔やみ申し上げます。
彼女のブログを開いてみたら、はじめのページに、《子供の頃から体育の授業がこの世で一番嫌いなものだった程、スポーツとは縁が無かった。》とある。
http://www.gendarme.org/cgi-bin/ita/ita.cgi?CONF=kei?LIST
彼女があこがれていた探検家、植村直己も小さいころ、運動神経はよくなかった。意外かもしれないが、そういうもののようである。それはなぜか。こんどブログに書こう。
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おととい、今年亡くなった人を追悼する、朝日新聞の「惜別」欄に、お世話になった人が載っていて感慨深かった。
韓国の全玉淑(チョン・オクスク)さんである。私は7月に亡くなっていたことを知らなかった。

「韓国のミューズ」「女王蜂」「文化界のゴッドマザー」などいくつもの異名を持つ、大変な女傑だった。
私はサハリンの残留朝鮮人に関する番組制作に協力するため、彼女に呼ばれてソウルに行った。当時、韓国とソ連は国交がなく、私がサハリンで取材した映像素材を無料で彼女に提供した。
その番組は韓国で大きな反響を巻き起こし大韓赤十字と政府を動かして、残留朝鮮人の帰国につながったのだった。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20100509
その際、全さんの家に2泊させてもらったが、普通では知ることができない韓国社会の一面を見ることができた。

《(惜別)全玉淑さん シネテルソウル前会長
■日韓つないだ「母」の硬軟 7月9日死去(老衰) 85歳

 日韓関係に関わってきた多くの人たちにとって、「姉」であり、「母」だった。
 韓国文学を日本語で紹介する季刊誌を発行したり、交流の場となる飲み屋を開いたり。素直に近づけない日韓の接点を作り続けた。
 日韓の新聞社の社長や幹部らに夜な夜なログイン前の続き電話しては、呼び捨て、ため口で「お前しっかりしろ」。党役員への就任をためらう韓国の中堅国会議員には「明日バッジを外せ。目の前から消えうせろ」。
 これぞ、と見込んだ政治家や文化人、言論人らを、剛腕で締め上げたかと思えば、時に繊細な気配りで包みこんだ。韓国で「歌王」と呼ばれる趙容弼(チョーヨンピル)や抵抗の詩人、金芝河(キムジハ)らも、若いころから支えられてきた面々だ。
 全さんが主催し、数年前まで開いていた恒例の忘年会は、与野党の幹部らが政局を話し合う場だった。私も韓国で面識のない政治家を取材しようと国会に訪ねた時、「全さんの『息子』なんですが」と切り出すと、「なんだ兄弟か」と歓迎されたことがあった。
 韓国の番組制作会社の草分け、シネテルソウルを設立した。多くの人の世話をしてきた割には、その詳しい経歴を知る人は少ない。
 1980年末に1年近く全さんの自宅に間借りしたNPO代表の臼杵敬子さん(67)は「65年の日韓国交正常化前後に作家の檀一雄さんと親交を深めたのが、日本と関わったきっかけでは」と話す。
 晩年には、変容する日韓関係を「もっと深く、人間対人間で付き合わなきゃダメだ」と嘆いた。何度も求められた自叙伝は「全部断った。知らない方がいいこともあるんだよ」。国交正常化50周年の夏、訃報(ふほう)に駆けつけた日韓の「家族」らに、静かに見送られた。
 (箱田哲也)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12125766.html?rm=150
私にも「趙容弼(チョーヨンピル)を売れないころから面倒見て、日本に売りこんだのは私なのよ。ヨンピルは私のこと『お母さん』と呼ぶんだ」と言っていた。

全玉淑さんには、KCIAの工作員だとか、暴力団「東声会」の町井久之(鄭建永)の愛人だとかとかく噂がつきまとうが、大物の証拠でもある。
http://www1.korea-np.co.jp/special/s-korea/kcia980427.htm
彼女ほど肝が据わっていて、男気のある女性をいまだに知らない。とにかくすごい人だった。人間の本物の迫力について教えてくれたことに感謝している。ご冥福を祈ります。
おもしろい思い出がたくさんあるので、こんど彼女についても紹介したい。