生きるのがつらい時は、じっと立ち止まる


オフィス近くのイチョウが激しく落葉しはじめた。
冬の陽に映える葉も最後の輝き。あと数日でほとんど落ちるだろう。
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二つの番組の編集がダブルで進行中で、オフィスがせわしくなってきた。
それに加えて、年末特有の、これもしなくちゃ、あれもやらないと、という用事が出てくる。それに年賀状も出さなくては。

今年放送した映像を写真にして6枚を年賀状にプリントする。選んだうちの一枚が、これ。

トルコからギリシャのレスボス島に渡ってくるシリア難民。
溺死した3歳のシリア人の男の子が打ち上げられた事件の直後に、ジャーナリストの遠藤正雄さんが撮影した。
(遠藤さんについてはhttp://d.hatena.ne.jp/takase22/20150401

私の今年の印象は「難民の年」だった。
いまも、この寒空に、たくさんの人々が、野宿して欧州を彷徨っているのだろう。
良い年が迎えられますように。

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雑誌を片付けていたら、東田直樹さんの特集号が出てきて、ぱらぱらめくっていたら引き込まれて読みふけってしまった。
東田さんは23歳。「会話のできない重度の自閉症。パソコンおよび文字盤ポインティングにより、援助なしでのコミュニケーションが可能」とプロフィールにある。

数年前、彼の文章を読んで感動し、自閉症というものへの認識をあらためさせられた。
 実は、彼は日本より海外で知られていて、「2013年7月に発売されたイギリス版「自閉症の僕が跳びはねる理由」は、(略)イギリスのアマゾンUKでは、発売前からすでに6千部の予約が入っており、ベストセラー・リストでも1位に入る。引き続きアメリカ、カナダで出版され、10万部を突破し、話題になる。現在、世界20か国以上で翻訳、出版されている。」
http://naoki-higashida.jp/(東田さんのブログ)

東田さんは、自閉症である自分について、こう書いている。


「あの人変だよね」
この言葉を聞くたび、私は泣きたい気持ちになるのです。他の人からの刺すような視線に耐えられず、その場から逃げ出したいと、いつも思っています。

 街中で、わけのわからないひとり言をつぶやく、おかしな動きを繰り返す、ピョンピョン跳びはねる、そんな人を見かけたことはありませんか?

 見かけても、かかわりたくないと避けたり、顔をしかめたりされた方もいることでしょう。

 身体のどこも悪そうに見えないのに、言葉が通じない。意味のない行動ばかりやりたがる。普通の人から見れば自閉症は、わからないことだらけの障害だと思います。

 話せないから、心がないのでしょうか。

 みんなと違うから、異星人なのでしょうか。
 私は、自閉症とは、自分で自分のことをうまくコントロールできない障害だと考えています。
 なぜなら、自分はまるで、壊れたロボットの中にいるようだと感じているからです。
 たとえば、先生から指示が出されたとします。みんなはすぐにその指示に従うことができますが、私は話の内容は理解しているのに、どうすればみんなのように、言われた通りに行動できるのかが、わかりません。
 みんなと同じことができない。

 自分勝手に動き回り、先生やみんなに迷惑をかけ、怒られてばかりの私は、人の役に立ついい子になりたいと、心から願いました。しかし、話そうとしても頭の中が真っ白になるので、弁解どころか、人に謝ることさえできません。こんな毎日が、つらくてつらくて仕方ありませんでした。

「何のために生まれてきたのだろう」

 動物のように奇声を上げ、人の言うことを聞かず、自分のペースで生きようとする。自閉症の私が、この社会で存在する意味を知りたいと思うようになりました。
http://bigissue-online.jp/archives/1013051923.html

 東田さんにある雑誌が26の質問を投げた。
 その回答は、深い「智慧」を感じさせ、ふかく考えさせられた。
《生きるのがつらい時、どうしたらいいでしょうか?》という質問に対する東田さんの回答。

《どこかに出口があるとは考えず、じっと立ち止まってください。そして、昨日と同じ1日を過ごしてください。つらい気持ちと向き合おうとしなくても、人は生きていけます。あなたが悪いわけではないのです。人は与えられた環境の中で、精いっぱい生きなければならない動物です。たとえ、自分の精いっぱいが他の人と違っても、恥ずかしいことではありません。》

《東田さんにとって成長するとはどういうことですか?》という質問には。

《成長とは、自分が思い描いている理想の自分に近づくことだと思っています。山の頂上にたどり着くのに、いろいろなルートが存在するように、成長していないと感じる期間も、実はゴールするために必要な時間だったという場合も、あるのではないでしょうか。今の自分が成長しているかどうかは、誰にもわからないと思います。過去を振り返って、自分が判断すればいいことなので、他の人の評価は気にしません。もし、今の状況が昔より悪くなっていたとしても、未来の自分にとって必要な時間だったととらえる。僕にとって、そんな都合のいい言葉です。》

 これが、わずか23歳の若者が言うことなのか・・・



 師走は一年を振り返り、生き方を考えさえられるが、時間を作って、東田さんの本をじっくり読んでみたい。