旅券返納は官邸主導だった

takase222015-02-19

杉本祐一さんという新潟在住のカメラマンが、シリアに行こうとしたら、旅券返納命令を受けて実際に旅券を取り上げられた事件。
先週ちょっと騒がれたが、その後、マスコミも世論も静かだ。

きょう、フォトジャーナリストの山本宗補(むねすけ)さんがうちのオフィスに来てしばし話し合ったのだが、「我々フリーランスはものすごい危機感を持っているが、メディア企業はほとんど関心もってないね」と憤っていた。
旅券取り上げは酷い措置だと思う。このままだと、政府が好ましくないと思う人物には旅券を出さないというところまで行きかねない。

17日にはシンポジウム「なぜジャーナリストは戦場に向かうのか」が山本美香記念財団主催で開かれ、またきのう18日には参議院会館で「杉本祐一さんのパスポート返納命令を考える院内集会」があった。
私は急な仕事で参加できなかったが、山本さんによれば、どちらも「安倍政権による報道管制について、戦場を取材してきたフリーのジャーナリストたちの危機感に満ちていた。テレビ新聞などに属する記者の危機感の薄さが際立った」という。(ツイッターhttps://twitter.com/asama888より)

ジャーナリスト田中龍作さんのブログによると、院内集会で、この旅券返納措置の政府内の事情が一部明かされたと言う。
シリア取材を計画していたフリーカメラマンのパスポートを外務省が回収したのは、官邸の意向を踏まえた決定だったことが分かった。
 きょう、参議院会館で開かれた「旅券返納問題を考える」緊急集会で、福島瑞穂議員が明らかにした。
 福島議員が外務省と警察庁に折衝した結果、判明した。それによると―

 外務省がフリーカメラマン杉本祐一氏(新潟市在住)のシリア渡航計画を認識したのは2月5日。前日(4日)の新潟日報の報道を受けてのものだった。
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 翌6日午前中、杉田和博官房副長官が外務省に対して官邸に来るように要請。
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 夕方、外務省の三好真理領事局長が官邸に出向き、杉田官房副長官に事情を説明。
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 外務省は官邸の意向を踏まえ、その場で「旅券返納命令」を決定。

 翌7日、外務省旅券課職員が新潟に出向いて杉本さんにパスポートを返納させた。

 マスコミ報道によると、外務省と警察庁が再三に渡って渡航の自粛を要請したが、杉本氏が拒否したため返納を命じたとしている。だが、それは安倍官邸の意向だったのである。
 福島議員は「戦争法案(集団的自衛権行使のための関連法案)が通った後、フリーランスが(現地に)行くのが難しくなる。何が起きているのか、大本営発表以外に(国民は)知ることができなくなる」と警鐘を鳴らす。
 集会には新聞労連の新崎盛吾委員長も出席した。共同通信の記者だった新崎委員長はイラク戦争(2003年)で大手マスコミが撤退した後、フリーランスの情報を頼りにしていたという内幕を明かしながら次のように話した―
 「安倍政権は秘密保護法を運用していくなかで “報道の自由を侵害しない” と言いつつも、法律の恣意的な解釈によって “自由を侵害できるんだ” ということを見せつけた」。(略)》http://tanakaryusaku.jp/(写真は院内集会での杉本さん、田中龍作ジャーナルより)

官邸主導で旅券を取り上げたというのは、重要な情報だと思うのだが、新聞もテレビもほとんど報じていない。だから、このブログでも、フリージャーナリスト二人のツイッターやブログから引用するしかない。

シンポジウムのほうは盛況で取材もたくさん入っていたが、旅券を取り上げられた杉本さんを迎えての院内集会にはTBS報道特集の記者などごくわずかを除いて、マスコミの取材者がいなかったという。「自分たち大メディアは関係ない」とでも思っているのだろうか。
朝日新聞は二日続けてシリア・アレッポのルポを掲載しているが、これはおとがめなしだろう。
フリーランスを狙っているのは明らかだ。
だが、その次は・・・