ゆうべMrサンデーで放送予定だった「拉致工作員」特集がとんでしまった。
怪我をしながらも2位になった羽生選手が帰国した話題が急遽入ってきたのだった。
情報番組では、直前に差し替えになることがよくあるので、ご了承ください。
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『知ろうとすること。』の早野龍五氏は、福島原発事故のあと、内部被ばくについてきちんとまとめられた論文がなかったとき、初めての査読(専門家による検証・評価)つきの論文を書き、それは、2013年に国連の科学委員会が福島原発事故に関するレポートをまとめるさいに使われた。
早野教授には二人の盟友がいる。
坪倉正治医師(南相馬市立総合病院の非常勤医師)と宮崎真医師(福島県立大病院の放射線医)だ。
坪倉医師については、例の「美味しんぼ」の鼻血騒動のとき、このブログで紹介した。
「東電の回し者」などと非難されながらも、具体的な検査結果をもとに、「流通している県内産のものを摂取して高い内部被曝をする状況では全くない」「現状の相馬市、南相馬市で日常生活を送る上での放射線被曝リスクは十分低い」と説明して福島県の人々を力づけてきた人である。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20140518
彼らの主張がなかなか伝わらない要因は、前回触れたメディアの発信の問題(危ないという情報以外は報道されにくい)以外にもあった。
早野 「ぼくが勉強会で話したりすると、『あなたは、原発に反対なのか、賛成なのか。まずそれを明らかにしてくれないと話は聞けない』という方がいらっしゃる。」
放射線被ばくの影響を科学的に分析することと、原発そのものの是非、原発事故の責任論などの問題がごっちゃにされ、政治的な「立場」の議論にすり替えられるのだ。
坪倉医師が、「大丈夫」というと「東電の回し者」と非難されたように。
おそらく、反原発をかかげる一部の活動家は、被ばく量は低かったとする早野氏らの調査結果を喜ばないだろうし、そもそも信じようとしないだろう。被ばく実態が危険であるということを扇動の入口にするには、安全であっては困るのだろう。
メディアのなかにも、「放射能に関しては分からないことが多い」という一般論を持ち出し、「ゼロが理想」という誰でも賛成するフレーズを使うことによって、いつまでも「こわい、あぶない」を唱える向きがある。
放射能はあるかないかではなく、あくまで「量」の問題であり、それは今や、具体的なデータで科学的に議論できる段階に来ていると早野氏はいう。
そのデータの一つが、早野、坪倉、宮崎三氏による「福島県内における大規模な内部被ばく調査の結果」を参照してほしい。ホールボディカウンターで3万人以上を調べた結果である。
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-09/ref01.pdf
《福島第一原発事故は、福島県内の土壌を放射性セシウムで汚染した。チェルノブイリ事故で得られた知見をそのままあてはめると、福島県県内の人口密集地で、年に数 mSv を超える内部被ばくが頻出することが懸念された。
しかし、ひらた中央病院で 2011 年 10 月から 2012 年 11 月に行った 32,811 人のホールボディーカウンター検査結果は、住民の内部被ばくが、この予想よりも遙かに低いことを明らかにした。》
私もこれを知って、ほっとした。
ところで、なぜ、「予想よりも遙かに低い」と言うのか。
チェルノブイリでの経験から、土地がこのくらい汚染されると、その住民はこのくらい被ばくするという一定の関連性を示す「係数」が知られていた。
だから、はじめは、福島県民の被ばく量はそれなりに高いだろうと予想されていた。
ところが、計ってみたら、「チェルノブイリ事故で得られた知見」が当てはまらないほど、低かったので、早野氏らも驚いたのだ。
なぜ、そんなことになったのか。
(つづく)
写真は、毎日新聞メディアカフェでの早野、糸井対談