希望を持ち続ければ奇跡が起きる

takase222014-10-05

夜遅く、Mrサンデーの放送の放送中、バンコクの友人から急な連絡が入った。
タイ在住の名物ジャーナリスト、日下部政三(くさかべ・まさぞう)さんが今朝亡くなったという。(写真)
四半世紀前からの知り合いで、去年、共通のタイ人の友人の葬儀で、10年ぶりに再会した。それがきっかけで、東南アジアの仕事を依頼するようになり、今年3月にはロケハンにいってバンコクの真理子さんの店で痛飲した。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20140313

 Mrサンデーで放送した特集「驚異の新型偽ドル札出現」のタイ、ミャンマー取材では、日下部さんにカメラをお願いした。
 クーデター騒ぎのときも、日本のテレビ局に頼まれて取材に動いていたし、この夏には、タイでの撮影を予定している知人から頼まれて紹介し、電話で何度か話していた。友人によれば、8月の日本人の「御曹司」が20人以上を代理出産させた事件でも取材していたという。
 そのころ、体調が悪く、検査したら末期がんと判明したと聞く。
 驚くとともに、寂しさが襲ってくる。

 弱きを助け強きをくじく漢気のある人だった。飲むと、滔々と、タイの政治やメディア論から色恋の話までエンドレスに語る、古いタイプの「無頼派ジャーナリスト」。
 当然、金には縁がない。がんと分かってからも、高額の治療費を惜しんで入院せず、長年連れ添ったタイ人の奥さんに少しでも金を残そうとしたという。
 戦場、紛争地から売春、麻薬などダークな領域、人情話も取材できるオールラウンドプレイヤーだった。もっともフリーでやっていくには、何でも屋にならざるを得ないのだが。
 ブログは6月で終わっている。http://newsasia.blog39.fc2.com/blog-date-201406.html
 タイの行く末については、非常に鋭い分析をしており、それに私は大きく影響されている。

 まだ、私より若い。面白いやつがまた一人いなくなった。
 ご冥福を祈ります。
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 Mrサンデーの放送案内を、横田さんに送るのがつらかった。
 思い出すのもいやなことを、番組は再現映像で掘り起こすのだ。ファックスに「おつらいシーンもあると思いますが、拉致という現実を知っていただくためですので、お許しください」と書いた。

 ただ、孫娘ウンギョンさん一家との5日間をしっかり再現することは、拉致問題における被害者家族の闘いのあり方を考える上で意味があったと思う。
 夫の日本語が途中から通訳をはずしたほど上手だったことや、ウンギョンさんが手作りの料理をふるまってくれたことなどで、濃密な水入らずの家族の交流がなされたことは確かだが、取材すると、あの5日間は、やはりそれだけではなかった。
 ウンギョンさんが泣きながら、夫妻が北朝鮮に来なかった理由を迫り、夫妻は、めぐみさんと拉致問題について語って聞かせていた。ウンギョンさんの夫が撮影するビデオが、北朝鮮当局に見られることを前提に、早紀江さんは渾身のメッセージを会話のなかにしのばせた。
家族団らんの中、見えない闘いが繰り広げられていたのだ。
 こんな解釈で、再現シーンは制作された。

 ウンギョンさん一家との面会を「奇跡」だと、早紀江さんは新著『愛は、あきらめない』に書いている。
「そういうふうなことが確かに起きているのです。神様は何を計画なさっているのかわかりませんが、祈っている中で不思議なことがポツンポツンと起きてきています。血のつながった家族が、普通ならこんな感じでいられるという時間を過ごせた。それが何十年もかかった後、はるばるモンゴルまで行ってかなったという現象が『拉致問題』なのです。まだ話せないこともありますが、緊張感のある、でも楽しい時間を感謝しながら過ごさせてもらいました(P24)
別れのときのシーンはこうだ。
「『今日みたいなことが起こるのだから、必ずまたいい日が来るから。希望だけは捨てないでね。絶対に希望ですよ』と言って窓から手を差し出すと、向こうも握り返してきて、涙をためながらも笑顔で『うん』とうなずきました。」(p20)
《希望を持ち続ければ奇跡が起きる》
 これが早紀江さんのメッセージだと思う。次の奇跡を期待したい。