サムスンの本当のすごさ 3

takase222013-01-14

ちょっと前になるが、シンガポールチャンギ空港で時間があったので、プレヤールーム(祈祷室)を見に行った。
11月に「ガイアの夜明け」でムスリム向けの観光を取り上げ、食事、祈りなどムスリムの日常にどれだけ配慮できるかが問題だと知った。空港は外国からのお客さんの玄関口。どうなっているのか興味があったのだ。
両手を合わせた合掌のサインがトイレやエレベーターのサインと並んでどこにもあり、場所はすぐに見つかった。男女に分かれた立派なスペースだ。
写真は男子の方。右手に見えるのは、腰掛けて使える洗い場。ムスリムは、祈りの前に顔、手、腕から足まで洗って清めるから、祈りのスペースと水場は近い場所にないといけない。
シンガポール空港はさすがにすばらしい。これはお手本にしなくては。
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日本企業の「ものづくり」偏重を昨日は批判したが、職人的な一途さにはすばらしいものがある。日本企業が、液晶をはじめ画期的な技術を開発してきたことは誇りにしてよい。
これらの開発には、膨大な時間、労力、コストがかかったはずだが、そうした技術をさっと真似され安値攻勢をかけられ、今や開発した自分がそこから撤退せざるをえないという悪夢のような展開になっている。
サムスンは、過去に見たことのないような競争相手である。
では、どこがすごいのか。
さて、数年前まで日本に知られなかったサムスンだが、今では本屋に行くと「サムスン本」が並び、いまやこの企業、日本の経営者が学ぶべきお手本のような扱いだ。
いわく、サムスン経営判断は迅速なトップダウンだ、いわく、国際ビジネスには社員に高い英語力をつけさせなくては、いわく、信賞必罰を徹底すべし、などなど。
私の見るところ、日本企業が一番真似できないのは、この企業グループには「本業」という考え方がないという点だ。
サムスン電子は、李健熙(イゴンヒ/イゴニ)が大統領特別赦免で会長に復帰したあと、「五大次世代事業」を発表した。将来何を重点にするか戦略分野を明らかにしたのだ。
そこには太陽電池、自動車用第二次電池、発行ダイオード(LED)、医療機器とならんでバイオ製薬が選ばれた。これらに2020年までに総額23兆3000億ウォン(1兆6000億円)を投資するという。日本円で億の単位ではない。民間企業が兆の投資をするのである。
バイオ製薬には特に注力しており、すでにサムスン電子の出資で米企業との合弁の「サムスン・バイオロジックス」が設立されており、グループのバイオ関連企業の中核に位置づけられている。
李健熙は「バイオ製薬はサムスングループの未来産業だ」と断言している。
2011年の新年祝辞で、李健熙は、1200人のグループ役員を前に、こう言った。
サムスンを代表する大部分の事業と製品は10年以内に消え、その場には新しい事業と製品が占めているだろう」
つまり、テレビもスマートフォンも10年後にはもうやっていません、そんなの要りませんよと言いはなったのである。
もっと言うと、電機産業自体を将来的には捨ててもいいと思っているはずだ。スマホはうちのお家芸」などというこだわりは全くない。もうかればいいのである。もうからなくなりそうならすぐやめる。次に勝ち目のあるものを見極めて一気に投資する。
こういう企業と闘うのに、「『ものづくり』でがっぷり四つに組んで」・・・などというメンタリティで立ち向かっても勝負にならないのは目に見えている。
年末30日の日経新聞「2013展望」という記事に、ソフトバンク孫正義氏が登場し「(日本企業が)競争力を取り戻すために経営者は何をすべきか」との質問にこう答えている。
《経営者の最も重要な仕事はドメイン(事業領域)を常に再定義することだ。日本企業は『本業』という言葉が好きだが、市場が縮小するのに既存事業にしがみつく理由は何か。企業理念を軸に次の戦略を描くのが経営者の役割だ》
ほう、日本にもこういう人が出てきたのかと面白く読んだ。
在日ジャーナリスト蠔淵弘(ベ・ヨンホン)氏が『サムスン帝国の光と闇』(旬報社という本を書いた。おそらく、サムスンの初めての本格的批判本である。
韓国一の巨大企業にして労働組合を許さない異様な体質、十年で資産を千倍にした一族の錬金術、タブーだった「骨肉の争い」、製品開発におけるダーティな手法、苛烈な労務管理など韓国マスコミは絶対に書けない話が満載だ。

なお、このブログでも過去サムスンについて何度か書いているので、関心のある方は参照してください。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120131
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120215