あんたたちの未来のために勇気出すわ(嘉田由紀子)

takase222012-12-08

きのうの揺れは大きかった。
大震災のときの地震の余震らしいが、M7以上の余震は去年7月以来で、「実際に警報レベルの津波が観測されたのは本震後初めて」(共同)だという。
地震のたびに、福島第一原発の4号機の使用済み核燃料貯蔵プールが心配になる。
つい先日の3日、東電は「4号機の使用済み核燃料の貯蔵プールからの本格的な燃料取り出し作業を、当初の予定より1カ月前倒しし、来年11月中旬から開始すると発表した。また、取り出し完了時期についても、1年程度前倒しして2014年末を目指すとしている」。
「4号機の使用済み核燃料貯蔵プールには現在、未使用の燃料も含めて1〜6号機で最も多い1533体の核燃料が入っている。4号機は事故時に水素爆発が起き、原子炉建屋の健全性に懸念があることから、核燃料の早期の取り出しが課題になっている」(朝日新聞
東電は、大震災と同じ揺れの地震が来ても大丈夫と言っているのだが、ほんとは危ないから作業を急いでいるのでは、とかんぐりたくなる。
・ ・・・・・
嘉田由紀子さんは水と人のかかわりが専門である。
彼女を調べていて、琵琶湖が世界的にも非常にユニークな湖だと知った。400万年前、今の三重県に大山田湖という湖が誕生し、地殻変動とともに移動して40万年前に今の形になったという。ちなみに人が住みはじめたのは2万年前。バイカル湖カスピ海と並ぶ、世界でも珍しい古代湖なのだ。
固有種が多く自然環境としても貴重であるうえ、貝塚などの遺跡が周辺に100箇所もあって、人との関わりの歴史もながい。米作りも非常に早くから行われた形跡があるという。
ひょっとして、古代から近畿圏が日本列島で突出した文明先進地になったことに琵琶湖の存在が関係しているのでは、などと私は勝手に想像をめぐらしている。
また、琵琶湖周辺は、日本の宗教を考える上でも重要な地域らしいが、こんなことを書いていくと終わらなくなるので、いずれ。
嘉田さんは、水とともにある人の暮しを、仲間とフィールドワークでたんねんに聞き取り調査しながら掘り起こしてきた。そこから「生活環境主義」という方法論を打ち立てる一方、琵琶湖周辺の水環境のエキスパートとして河川改修やダム建設に関する審議会や委員会にメンバーとして参加するようになっていった。
現場をよく知る嘉田さんからみて、行政の打ち出す政策はあまりに理に合わないように思えた。
たとえば、01年から淀川の河川政策の委員会「淀川水系流域委員会」では、400回を超える議論を経て、05年夏、大戸川ダムの建設凍結方針が出た。ところが、そのわずか1週間後、滋賀県は「建設推進」を打ち出す。なんとも理不尽な対応は、ダム建設ありきだからで、委員会は添え物なのだ。
これは、中央とつるんだ自民党県政では日本各地で見られた光景だった。原発をめぐる政策決定の構図とも似ている。
もっと、おかしいのは、滋賀県のあるダムの建設計画で、1953年の水害で40人の死者が出たことを建設の理由にしていたが、嘉田さんたちが調べたら、それはダム建設予定地のはるか上流の山間部での土砂災害だった。
そんなとき、県が財政難であるにもかかわらず新幹線駅の建設計画がもちあがる。一方で駅の必要性について住民投票を求める条例制定請求が県議会で否決された。新駅建設の地元の60代の男性が嘉田さんにこう言ったという。
「新幹線の駅も余裕があればいいけんど、うちは孫がでけん。孫が生まれる政策のほうが今は大事やがな。子どもが生まれんかったら駅をつくっても新幹線に乗る人がいいひんやんか」。
まわりからの「県政を変えて」との声に押されたが、夫は大反対、揺れる気持ちですごすうち、三人目の孫が生まれる。その安らかな寝顔を見て嘉田さんは知事選出馬を決意した。
「おばあちゃん、あんたたちの未来のために勇気だすわ」。
相手は、自民、公明、民主あいのり推薦の現職。嘉田側には社民党だけでとても勝ち目はない。はじめは泡沫候補扱いだった。ところが長年のフィールド調査で培った地元との信頼関係で草の根選挙が展開され、奇跡的に勝利する。
この経緯をみると、嘉田さんは、研究者としてスジがいいだけでなく、政治家としても、とてもスジがいい。
そして選挙戦で訴えたのは「もったいない」の精神だった。
嘉田由紀子『生活観光主義でいこう!』岩波書店から引用)