シリア人ジャーナリストは54人も犠牲に

takase222012-08-23

山本美香さんの死亡時の状況が明らかになってきた。
私は、山本美香さんとパートナーの佐藤さんが、日テレにレポートを送るためにシリアに行くことは事前に知っていたので、「シリアで日本人女性が死亡か」という第一報を聞いたときには、ひょっとして彼女では、と思った。そして、もし彼女だとしたら、きっとヘリの空爆でやられたのだろうと思った。
安田純平さんの取材によると、政府軍は、反政府勢力が強い地域では、住民の活動地点を見境なく攻撃し、とりわけヘリからの空爆で多数の住民が死傷しているという。空からいきなり爆弾を落とされたら逃げようがない。
ところが、山本美香さんは、発砲してきた政府軍(または政府系民兵)の自動小銃で撃たれていた。政府側と反政府側の支配地が入り組んでいて、取ったり取られたりという流動的な地域だったらしい。
山本さんの最後のビデオで驚いたのは、攻撃された現場のすぐそばに子どもや女性、老人がごくふつうに暮らしていたこと。戦闘近しと分かれば非戦闘員は身を隠すものである。住民も自由シリア軍もまったく予期しない急襲だったのだろう。(写真は山本さんが撃たれる直前の彼女のビデオ画像)
このとき、山本さんと佐藤さんは、トルコから自由シリア軍兵士20人くらいと同行している。二人以外に、「レバノン人女性記者と米メディアで働く男性、トルコ人記者」もいたとニュースにあるから、少なくとも5人の外国人記者がいた。(うち米メディアの男性とトルコ人記者は、政府側に拉致されたらしい)
トルコ国境から、外国人記者むけに、アレッポに日帰りでプレスツアーが組まれたということらしい。日帰りで往復すれば、映像素材を毎日送ってレポートできるわけだ。
一方、安田さんは、5週間シリアに滞在して定点取材している。どういう取材方法をとるかは、まずは現場の状況、取材の狙い、取材者の能力、メディアへの出し方などによる。どちらが安全かも一概には言えない。
今回の事件で、浮上したのが、政府軍がジャーナリストを狙っている可能性だ。
安田さんによると、政府軍は反政府地域で献身的に働くボランティア医師など市民サービスに貢献する人材をスナイパーで狙い撃ちするというから、ジャーナリストが「都合が悪い存在」と判断されたら、当然ターゲットになるだろう。山本美香さん以外に、外国人ジャーナリストが何人もシリアで亡くなっている。
これに関してユネスコが声明を出した。
《内戦が続くシリアで、ジャーナリスト・山本美香さんが取材中に戦闘に巻き込まれて死亡したことを受け、ユネスコ(=国連教育・科学・文化機関)のボコバ事務局長は「山本さんが殺害されたことを非難する」との声明を発表した。
 声明ではまた、「シリアの紛争当事者全てにジャーナリストを標的にしないよう求める」などと述べ、ジャーナリストの権利を尊重するよう訴えた。》(日テレニュース24)
外国人が死亡するとニュースになるが、シリアでは自国のジャーナリストがたくさん死亡していることはあまり伝えられていない。
《シリア政府軍は22日、首都ダマスカス南部などで反体制派への攻撃を行い、シリア人記者1人を含む少なくとも40人が死亡した。
シリアのジャーナリストでつくる地下組織によると、政府軍による反体制派への攻撃で死亡したシリア人の記者やブロガーは、これまで54人に上るという。
同日死亡したのは国営紙のMosaab al-Odaallah記者。反政府運動が始まった南部ダルアーの出身で、インターネット上に偽名で政府軍の弾圧についての記事を公開していた。活動家によると、同記者は首都南部の自宅に襲撃した部隊に至近距離から撃たれて死亡したという。ただ、事実関係は確認できていない。
地下組織の代表は、政府軍は記者やソーシャルメディアで情報発信する活動家を殺害する方針をとっているようだと話した。[アンマン 22日 ロイター]》
この記事が本当なら、この記者は明らかに狙われて殺されている。
非常にきびしい環境のもと、国内に留まって、インターネットなどで状況を伝え続けるシリア人ジャーナリストを陰ながら応援したい。