自由シリア軍の武器はどこから

takase222012-08-16

墓参りと実家の片付けをかねて、14日に里帰りし、きょう東京に戻った。
いつもは山形新幹線を使うのだが、今回は鶴岡に立ち寄るところがあって、上越新幹線で新潟に出、そこから羽越線日本海側を北上するルートをとる。
列車の窓から青い海を眺めながら行くのは気持ちがいい。
鶴岡では、前から一度行ってみたかった、地産地消イタリアン「アルケッチャーノ」に。映画『よみがえりのレシピ』や本『庄内パラデイーゾ』で知られた奥田政行シェフの店である。http://www.alchecciano.com/index.html
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120421
料理は素晴らしいし、スタッフが実にフレンドリーで楽しい。ほとんどが奥田さんにあこがれて県外から来た人で寮に住んでいるという。奥田さんは北海道に出かけたとかでオお会いできなかったが、スタッフとたくさんおしゃべりできた。
16日の「はなまるマーケット」で放送されます、と言われたが見れなかった。
写真は、店の前に近所の農家が野菜を納めにきてスタッフと話し込んでいるところ。
庄内地方に行く機会があれば、ぜひ立ち寄ってみてください。
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さて、報道特集のシリアリポート。
安田純平さんは、レバノンから反政府勢力の案内でシリアに密入国し、7月末まで5週間にわたって「自由シリア軍」の支配地に滞在し取材した。
取材は主に、タルビサとラスタンという町。
タルビサはほとんどの住民が脱出し、残っているのは自由シリア軍(自由軍と略)の兵士たち。安田さんのカメラの200m先に政府軍の戦車がいて、町に向けて砲撃する瞬間が写っていた。
映像にはひっきりなしにタタタタ、ドドーンと砲声銃声が記録されている。とにかくバリバリ撃ってくるのだという。
また、ラスタンでは8割以上の住民が避難している。そこでも政府軍は住宅街に向けて激しく砲爆撃してくる。政府軍が手当り次第に撃ってくるのに疑問を持って、安田さんが、「政府軍にどんな戦略があるのか」と自由軍兵士に聞いたら、「町を破壊して無人化することが目的だ」と答えたという。
住民がいなくなったところを政府軍は軍事支配するつもりだというのが自由軍の見方で、安田さんはそれが事実なのだろうと思ったそうだ。また、安田さんは、イラクで米軍が反米活動が激しい地域で包囲殲滅作戦をとった「ファルージャ」を想起したという。
いずれの町も、戦闘は毎日。戦車、ヘリをもつ政府軍とでは装備が違うから、小火器による市街戦で対抗するしかない。
その「自由シリア軍」とはいったいどんな人たちなのか。安田さんは寝食を共にしていろんな話をした。彼はイラクでコックをしていたこともあり、アラブ語ができるのだ。
「兵士」は普通の市民で、レストランでパイ生地を作っていた男や羊飼いもいた。ごく普通の市民が銃を取っているわけである。また、政府軍から離反した兵士も相当数いて、一人の男がカメラの前で政府軍の身分証を燃やしていた。
武器はほとんどカラシニコフという自動小銃。二年の徴兵制度があるので、武器の扱いにはなれている。
武器の調達方法は、大きく三つある。
まず、政府軍から奪う。兵士が反政府側に寝返って、「おみやげ」として持ってくることも多いという。
映像には、政府軍から捕獲したロシア製戦車や対空機関砲も写っていた。先月、シリア第二の都市、アレッポでの戦闘では、こうした捕獲戦車が投入されたという。
第二は、政府軍兵士に金を払って入手する、いわゆる「横流し」。自動小銃の弾、1発を2ドルで買っているという。政府側から調達した武器で政府軍と戦っているわけである。
第三は、レバノンイラクなど国外から武器商人を通して購入する。
武器の調達には資金が必要で、富裕層や国外で働くシリア人から多額の寄付を得ているという。レバノンで商社を経営するシリア人が安田さんのインタビューに応じ、「昨年末から、毎週、1千万シリアポンド(約1200万円)を提供している」と語っている。
反政府勢力が、武器や資金をどこから調達しているのかは、シリア情勢を理解するうえで、一つの重要なポイントだ。自由軍など反政府勢力の「正体」について、いまだに情報が錯綜しているのだ。
シリア内戦は激しさを増し、すでに犠牲者は2万人に達し、その多くが非戦闘員だという。人権団体はシリア政府に責任があるとし、世界に即時行動するよう求めている。
一方で、どっちもどっち、シリア政府ばかり批判するのは間違いだ、という声も強い。
チュニジア、エジプト、リビア、イエメンと続いてきた「アラブの春」のうち、反政府勢力がもっとも「怪しげ」に見られているのがシリアだ。
ネット情報では、「独裁政権」対「民主化勢力」という単純な構図ではない、反政府派はばらばらで統一されていない、「自由シリア軍」には米、英、仏やトルコ、サウジなどが、資金や武器を提供、将兵を訓練している、アルカイダなど過激派が入り込んでいるなどと書かれている。反政府派はアメリカやサウジのひも付きの怪しげな勢力だとも言われている。
どう判断すればいいのか、もやもやが募っていた。
安田さんの5週間の取材の中では、武器が外国政府から供給されているという情報は確認されていない。また、外国からの義勇兵はいるがごく少数で重要な役割は果たしていないという。
情報が錯綜する事態では、良質な第一次情報が重要である。安田さんの今回の取材は、この点で非常に貴重な仕事だったと思う。
さらに、取材は、自由シリア軍の実態について、これまで報じられてこなかった重要な情報を提供している。
戦闘下の町では「影の自治体」が機能していたのだ。
(つづく)