忙しいの? 2

takase222012-04-02

うちのかみさんが、仕事先から「啓翁桜(けいおうさくら)」を2枝もらってきた。
これは、山形県の特産で一番早く咲く桜ということで知られている。なにせ12月の真冬から咲き始めるのだ。初物みたいな感覚で贈答品になったり、けっこうな人気らしい。
で、花瓶に入れて、外は寒いが、部屋の中は春。

よく取材申請などで見知らぬ人にメールや手紙を出すが、そういうとき決まって「大変お忙しいところを恐縮ですが」という書き出しになる。世間ではそうすることになっている。
ときにはここが膨らんで、
「この不況のなか、先生におかれましては、重責を担われ、東奔西走の日々をお過ごしのこととお察し申し上げます。いま年度末を迎え、先生のお忙しさはいかばかりかと・・・」
などと数行になることもある。
どれだけ忙しいかなんて、こっちは知らないのに。
こんなメールを外国人に読ませたら驚くだろうな。
私が外国人に出すメールでは、「こんにちは」と挨拶したら(実際、Kon-nichiwaと書くことがよくある)、自己紹介してすぐに相手の説得にかかる。
日本では、忙しいことが「良いこと」で、ヒマなのはダメ人間なのだ。
私も人から「お忙しいでしょう」とか「ご多忙のおり・・」などと言われ続けると、なんとなく「忙しくないといけないのかな」などと感じてくる。
で、みんながそう思うから、「おれはこんなに忙しいんだぞ」とアピールするようになる。さらには忙しさで競争したり・・・まるでコメディーである。

私は若いころ、「忙しい、忙しい」と人にこぼすのは恥ずかしいことだと教えられたので、なるべく言わないようにしている。でも、雑用が重なってドタバタ、見積もりを作らなきゃ、電話もかかってくる、そこにピンポン、玄関ま走って出て行くと保険の勧誘のお姉さん。「このくそ忙しいときにバカヤロウ!」と怒鳴りたくなる。
そこをぐっとこらえて名刺交換してあげるのだが・・。最近、こらえるのがかなりうまくなった。
まず、カッとなったら「あ、俺はいま怒りがこみあげているんだ」と客観化する。
次に相手の立場に立ってみる。「お姉さん、この地区に配属されたばかりで、名刺交換何人としてこいとノルマが課せられているんだろうな。仕事とはいえ大変だな」。
さらには「うちの娘が就職したら、こういう仕事をさせられるかもしれないな」。
で、なるべく笑顔で名刺を出すというふうになる。
東南アジアで通信社の支局をあずかっていたときには、“You are Fired(クビだ)!!” 明日からこなくていい、とスタッフに怒鳴ったりしていたものだが。
あ、また話が横道にそれてしまった。
こないだ、私の知り合いに「忙しいでしょう」と軽く挨拶したときの話。
その知り合いは、複数の会社で働いていて、三つの大学で教えていて、その上、本を執筆していて・・という人。よく、大企業の社長さんが、いくつも肩書きを持っていて、はては地域の囲碁の同好会の世話人までやっていたりするが、ああいう人って忙しくないのかな。
で、その知り合いの答えは、前回の「田中角栄は忙しくなかったんじゃないかな」に続いて「というのは、自分が主導的にやっていると思うと忙しいと感じないから」というものだった。
(つづく)