山登りで日本を変える2


7大陸最高峰の最年少登頂記録保持者は日本人が続いていた。野口健さんの記録を石川直樹さんが塗り替え、それを山田さんが抜いたのだ。
これは、2002年5月13日、山田淳さんが23歳と9日でエベレスト登頂に成功し最年少記録を打ち立てたときの山頂での写真。山頂でIBMのパソコンを起動させているところだ。
天気にめぐまれたエベレストの頂上は登頂した人で混み合っているというが、山田さんは、パーティの他のメンバーより2時間も早く登頂してしまった。だから一人しか映っていない。
「エベレストは余裕でのぼっちゃいました」と山田さんは言う。また、「灘中受験の方が大変でした」とも。体が弱かったので、自分には「アタマ」しかないと思って必死で受験勉強したそうだ。強烈なコンプレックスが彼を駆り立てていた。
情熱大陸」は、昨夜おそくから渋谷のスタジオでサウンドの編集。
空き時間、スタジオのスタッフがテレビを観ていたら、日本人イヌイットの番組の再放送をやっていた。Nスペの「日本人イヌイット 北極圏に生きる」の長いバージョンで、録画するつもりが忘れていた。こないだNスペをたまたまつけたら、この番組で、引き込まれてやめられなくなり、他にやることがあったのに、最後まで観てしまった。
子どもが初めて海鳥の猟に出て、捕まえた鳥をなかなか殺すことができない。父親が、「こうやって心臓を指で圧迫して殺すんだよ」と教える。日本の子どもが観たら「かわいそー」「残酷」と悲鳴をあげそうなシーンだ。しかし、イヌイットの子は、じっとそれを見て、生き抜く技術と知恵を学んでいくのだ。
いろんなことをラディカルに(根底的に)考えさせられる、すごい番組だ。あす10日は、Nスペが再放送されるので、ぜひご覧ください。
いったい誰が作ったのかと、番組のエンドロールをみると、ディレクターは保坂秀司さんだった。さすが、と納得。テレビマンユニオンのディレクターで、業界では知られた人である。
番組が流れている最中、ツイッターに保坂さんがつぶやいているのを見つけて「ご無沙汰しています。番組に感動しました」と打ったら、「ツイッターって凄いですね。こんなところで再会できるとは」と返信が送られてきた。
私はもう20年以上前になるが、バンコク駐在中、保坂さんの撮影をお手伝いしたことがある。そのあと数年して、東京で、結核で入院中の保坂さんを見舞ったのが最後だったと思う。保坂さんはいま、別の番組を編集中で、自分の番組の放送を見ていないという。時間ができたらお話を聞きたいものだ。
さて、「情熱大陸」VTRは、ナレーション録りなどして、朝方に完成。
うちのスタッフが、その納品テープを新幹線で大阪まで運んでいった。この番組はTBSではなく大阪のMBS毎日放送)の製作著作なのだ。
きょうの山田淳さん、いわば、山歩きする人を増やすトータルコーディネーターだ。
7割が山歩きをする国を作るという「山登りトレンド化計画」をぶちあげてベンチャービジネスを立ちあげ、「安全登山の推進」と「登山人口の増加」にまい進している。
山道具レンタルで敷居を下げ、気軽に山歩きをはじめるきっかけづくり、山歩きを定着させるための情報活動などを展開している。
情報で言えば、フリーペーパー「山歩みち」(さんぽみち)を発行している。初めて富士山に登った人が、次にどんな山に登ったらいいかなど、山好きになってもらうためのビギナー向け情報が満載。持ち出しで発行するこの「山歩みち」、第1号が1000部、それが最新第5号は3万部と部数を急増させている。
山田さんの「山登りトレンド化計画」は、日本を変えることにつながっている。
世界中の山々を登って、日本の山がいかに素晴らしいかを実感。国土の7割が山というこの日本の自然で、外国からたくさんの観光客を呼ぶ「観光立国」を山田さんは構想する。
外国からお客さんを呼ぶ前に、まず日本人がこの素晴らしい自然に親しまなくては。
「山の良さを売らなければ、日本自体が立ち行かない」とまで山田さんは言っていた。「トレンド化計画」は、日本が将来何で食べていくのかという大きな国づくりを見据えたものだ。
ここは、私が山田さんに最も共鳴した点の一つだ。
電器、自動車など「ものづくり」を代表する主要産業が衰退、海外移転し、日本国内に次世代のための「職場」がなくなっていく。いまや部品製造、組み立てばかりか設計や研究、マーケティング部門まで海外に出す企業が次々に現れている。日本には、一握りのエリート集団がいる「本社」機能しか必要なくなる。雇用は減る一方になる。
グローバル化のなかで、最大利益を追求し、生き残るための企業の当たり前の行動である。その先には、「企業栄えて国滅ぶ」の図が待っている。
外国に逃げない産業を、もっと興さなくては。観光はその重要な柱だ。自然は海外に移転しない。観光立国の構想には大賛成だ。
(つづく)