放射能による健康被害8-マウスかツバメか

Youtubeで公開したビデオ「チェルノブイリ―『フクシマ』への教訓」は、おかげさまで、多くの方々から関心が寄せられている。
CS局の「朝日ニュースター」で今月30日から6日間の放送がきまり、DVD出版のオファーも来ている。今の日本で、求められている情報なのだと思う。
さて、きのう紹介した、低線量被曝させたマウスの話。
高い線量の放射線を浴びても、遺伝子が傷つきにくいのはなぜか。
実験にあたった遺伝学者のブレンダ・ロジャーズ(テキサス工科大)によれば、放射線を大量に浴びたときに体内でできる有害なフリーラジカルが、効率的に消されていくシステムを備えるようになったという。
理論的なことには深入りしないが、マウスは、低線量被曝したことで、放射線による遺伝子の損傷を蒙りにくい体質になったのだ。
一方、これとは別に、1991年から、フランスのアンデルス・モレール博士と米国のティム・ムソー教授という二人の学者が、チェルノブイリに生息する鳥を調査し続けている。
彼らの調査結果は、マウスの場合とは打って変わって、恐ろしいものだった。
まず、汚染区域では、鳥の個体数が他の地区のおよそ半分、種類はおよそ2/3と著しく少ない。ツバメを調査していくと、異常がある個体が非常に多いことが分かった。
足、首、眼の周りに腫瘍があったり、卵の大きさが正常なものの1/4くらいしかないなど、ここ数年で見つけたものだけで、15ものタイプに分類でき、そのうちの10タイプは、これまで世界中で見たことのないものだったという。
羽の長さが左右で違い、左右対称になっていないなど、羽の形に異常があるケースもあるが、これなどは、長い距離を飛ぶ鳥にとっては非常に不利になる。
また、ツバメの老化が早く、1年以上の生存率が3割しかないことも突き止めた。
さらに、ツバメから採取した精子の5割以上で形態的な異常が確認されたという。
毎年、個体数があまり変わらないように見えるのは、大量のツバメが早死にする一方で、常に別の場所で産まれたツバメが新たにチェルノブイリの森に入ってくるからだと結論づけている。だが、新入りのツバメも、低線量被爆によって結局は早死にしていくのだ。
ヒトは、マウスなのか、ツバメなのか。
生体実験などできないだけに、はっきり決着をつけることは難しそうだ。
そこで、ICRPも、とりあえず安全策を採って、ヒトにとっては、低線量被曝もよくないとみなして、被曝しないにこしたことはないとする。
だが、ECRRとは、どれほど危険かについての認識が違うのだ。
これについては、またあらためて書いてみたい。