福島原発で何が起きているのか4

takase222011-03-24

黄色い花が目につく。
サンシュユ(山茱萸)も初春を鮮やかに彩る木だ。
災害が起ころうと、人がたくさん死のうと、自然はいつもどおりにめぐり、花が季節の移り変わりを告げる。
きのう、福島原発の設計者が、マグニチュード9や今回のような大津波は想定していなかったという証言を東京(中日)新聞がスクープした。
《2011年3月23日 朝刊
 東日本大震災で世界有数の事故を起こした東京電力福島第1原発福島県双葉町大熊町)。その設計などを担当した東芝の元社員2人が本紙の取材に応じ、「設計時は、これほどの大津波は想定しなかった」と証言した。東電が想定していた津波は最高5・5メートル。実際には14メートルを上回る大津波が押し寄せており、2人は設計に甘さがあったと口をそろえた。
 元社員の男性(69)は大学で機械工学を学び1967年、東芝入社。商業用の沸騰水型軽水炉の建設が始まろうとしていた時期。71年から順次稼働した福島第1原発1〜3号機と、5〜6号機の設計に参加。原子炉周りの残留熱を除く熱交換器や海水ポンプなどを設計した。
 今回、津波が非常用ディーゼル発電機などの故障を引き起こし、原子炉の冷却機能がマヒしたことに衝撃を受けた。「当時は『マグニチュード(M)8・0以上の地震は起きない』といわれ、(10メートルを超えるような)大津波は設計条件に与えられていなかった」
 東電は土木学会の津波評価に基づいて、福島第1原発を襲う津波を最高5・5メートルと想定していた。国の耐震指針に基づく評価に合格している。
 当時の設計の甘さについて、福島第1原発が日本で初期の施設だったことを挙げる。「当時の日本で原発は未経験分野。1、2号機を受注した東芝も担当したのは部品設計。プラント全体の設計は米ゼネラル・エレクトリック社(GE)が受注していた」と明かす。
 GEの設計には、地震多発国特有の条件が十分に反映されていなかった。「日本のメーカーは原発設計の経験がなく、改善することもできなかった」
 3号機からはGEに頼らない「原発国産化」が目標に。東芝と日立が受注するが、実態はGEとライセンス契約を結び、規格を踏襲。「電力会社から『3号機以降も慎重に同じものをつくれ』と言われていた」と振り返る。
 「女川や柏崎刈羽などの原発でも非常用発電などは同じ弱点がある」と指摘する。
 事故後、男性は原子力発電所を抱える全事業所の社長に宛て「稼働中の原発を止めてほしい」とファクスを送った。「原発は人間が扱いきれるものではない。一人でも多くの人が気づいてほしい」
 福島原発のタービンの安全性を検証する作業にかかわった元東芝社員の男性(63)も「今回のような大津波やM9は当時は想像もできなかった」と振り返った。
 70〜80年代に東芝に勤務。事故や地震原発のタービンが壊れて飛び、原子炉を直撃する事故などによる安全性を検証した。M9の地震や、航空機が落ちて原子炉を直撃する可能性も想定した。すると上司から「原発が数10年しか稼働しないのに1000年に一度とか1万年に一度とか、そんな想定をしてどうする」と一笑に付された。
 今回、原子炉は地震の揺れそのものには耐えたが、津波で非常用電源や冷却機能がダウンした。「もしM9でも原発が大丈夫だったとなれば日本の技術は称賛されていた。非難とは紙一重だった」と話す。
 国も東電も「原発は安全」と強調してきたが、絶対に安全なんてことはないと感じていた。「どんなことが起こる可能性があるのか情報を徹底公開し、原発が本当にいるのかどうかを国民みんなで考えるべきだ」》
女川や柏崎刈羽などでも同じ弱点があるとは、怖い。
きょう、旧知の飯田正剛弁護士から《「メール声明原発事故対策」に、3月18日から3月24日までの間、462名の賛同が得られました》とのお知らせがきた。
これはジャーナリストの原寿雄氏や弁護士の清水英夫氏らが呼びかけて、メールで賛同者を募ってきたもの。保安院福島原発事故を「レベル4」とし、スリーマイル島事故より下に位置づけるなど、過小評価をやめ、適切な対処を要請している。
経済産業省原子力安全・保安院に対し、引き続き、本件事故について適切な評価を行い、その評価にふさわしい対策を講じるよう求めます。過小な評価に基づく対策を続けていれば、手遅れになるのは明らかです。(略)
 また、私たちは、政府や東京電力株式会社が、本件事故について徹底した情報開示を行って、国際原子力機関IAEA)などの協力を得るとともに、放射性物質の飛散状況について周辺各国が把握できるようにする必要があると考えます》
http://jcj-daily.seesaa.net/article/191574237.html
 危機感を持っていた私も署名してメールで知り合いに回した。
この声明は、内閣府経済産業省原子力安全・保安院に提出され、報道機関にFAXで送られた。きっといろんなところから、こういう要請が寄せられていることだろう。
 事故による放射性物質の飛散の影響が出てきた。30キロ圏内よりはるかに広い範囲で、農作物そして水にまで高い汚染が見つかっている。福島県だけでなく、関東地方の広い範囲で、乳幼児に水道水を飲ませないようにというお達しが出た。
 世界で2番目にひどい原発事故とされる「スリーマイル」を凌いだことは確実だ。「チェルノブイリ」と比べてどうだという報道まで出てきた。人の絶えた村々が続く現地を私が取材したときには、その「チェルノブイリ」と比べられるような事故が日本で起きるとは想像もしなかった。
《[ウィーン/オスロ 23日 ロイター]オーストリア気象地球力学中央研究所は23日、福島第1原発の事故後3─4日間に放出されたヨウ素131とセシウム137の量が、旧ソ連チェルノブイリ原発の事故後10日間の放出量の約20─50%に相当するとの試算を明らかにした。
 日米の測定結果を基に算出した。
 同研究所によると、事故後3─4日間のヨウ素131の放出量は、チェルノブイリ原発の事故後10日間の放出量の約20%。
 セシウム137の放出量は、同約50%に達する可能性があるという。
 フランスの放射線防御原子力安全研究所(IRSN)は22日、福島原発の事故で漏えいした放射性物質の量はチェルノブイリ事故の約10%との見解を示している。 
 チェルノブイリの事故では原子炉が爆発したが、福島原発の事故では放射性物質が比較的ゆっくりと漏えいしている。
 一方で、放射性物質が陸上に拡散したチェルノブイリとは異なり、福島原発の事故では放射性物質の多くが太平洋上に飛散しており、両事故の比較は難しい》
 チェルノブイリでは、どかーんと爆発して一気に大量の放射性物質が空高く舞い上がり、非常に広い範囲にばら撒かれたが、福島原発では、じわじわと、しかし相当量がもれ続けている。事故による数十万人におよぶ人々の移住費用、最低数十年にわたって使用不可能になる土地への補償、出荷できずに廃棄される農作物と廃業に追い込まれる農家、関連産業従事者への補償・・・。こういう費用もコストであるから、原子力発電とは、経済的にも割に合わないものであることが白日の下に晒されてしまった。
 当面は維持するしかないが、中長期的には、依拠すべきでないエネルギーだと確信できる。
 福島原発からは、きょうも、黒い煙が出て作業を中断した、3人が被爆して治療を受けているなどの心配なニュースが報じられている。
 ひきつづき幸運を祈る。