家族を「する」

takase222011-03-05

自殺者は去年も三万人超だったという。
警察庁は三日、昨年一年間に全国で自殺した3万1690人の年代や職業、原因・動機別の統計を発表した。総数は前年比で1055人(3.5%)減ったが、1998年から13年連続で三万人を超えた。 
 「就職失敗」はリーマン・ショック前の2007年の2.4倍に増え、424人。二十代が153人で約四割を占めた。二十代は勤務問題にくくられる「仕事の失敗」や「職場の人間関係」でも前年より増加した。
 自殺の原因・動機が判明したのは、全体の74%の2万2572人。うつ病や体の病気など「健康問題」が1万5802人(前年比65人減)。
 生活苦や負債などの「経済・生活問題」は7438人(同939人減)で一割以上減った。一方で、親子、夫婦の不和など「家庭問題」は4497人(同380人増)で一割近く増えた。
 職業別では無職が最多で1万8673人。次いでサラリーマンなどの被雇用者8568人、自営業者2738人で14.5%減と大幅に減った》(3日、東京新聞夕刊)
 「就職失敗」を「原因」とする自殺が急増しているのは、今の時世を反映するものだが、痛ましい。そんなことで命を絶ってほしくない。
 記事で目をひかれたのは、動機に「家庭問題」が多いことだ。全体のほぼ2割を占める。そして、それが増えているという。
 「家族」という言葉から、私は、山田洋次監督を連想する。山田監督の映画には、私たちが憧れる家族の原型があるように思うからだ。
 ところが、山田監督自身は、あるインタビューで「家族ってそんなにすてきなものじゃない」と答えている。意外に厳しい見方をしているのに驚いた。
 「僕自身も10代の終わり頃、両親が離婚して家族がバラバラになりました。家族を当てにせず青春時代をすごしたし、べたべたした家族関係は好きじゃない。本当に気持ちのよい家族もあるけど、自分たちさえよければ、隣近所や他人はどうなってもいいという家族もたくさんある。親が死んだら遺産を巡って兄弟が大げんかになる。『家族がいいもの』というのはしょせん幻想、という気もします」
 この考え方は、『男はつらいよ』の家族の形にも現れているという。
 「寅さんと妹のさくらは意識的に『異母兄妹』という設定にしました。両親が早く亡くなり、育ての親はおじさん、おばさんで、意外にあの家族の血のつながりは薄い。夫婦、兄弟、家族がべったりとつながっているんじゃなくて、それぞれが自分の役割を意識して『家族をする』家なんだと考えた。その中でどうすれば家族が愛し合えるのか、と」
 「家族がそれぞれの役割をちゃんと考え、それを心得て行動し、交流することはできるはずです。血なんかつながっている必要はないんです。そういう知的な努力の上にこそ、お互いの愛情がわいてくるんだと思います」
 最後に寅さんのセリフ「それを言っちゃあおしまいよ」について。
 「言ってはいけないことが分かる、というのは『家族がどうあるべきか。地域がどうあるべきか』という認識ができるということです。時々寅さんたちも『言っちゃあおしまい』的なことを言ってしまう。何度も人間関係のシミュレーションをして、それでもしくじりながら努力していく。ほんとうに面倒くさいもんだと思います。家族を作り上げていくっていうのは」(朝日新聞2010年9月7日朝刊より)
 「親である」ではなく「親になる」、「家族である」ではなく「家族になる」「家族を作る」なのだという。
 明日は入院中の父親を見舞いに行こうかな。