砲撃事件の背景―市場圧殺政策

サンデーフロントラインでは、いくつかの北朝鮮国内映像が流れた。
ひとつは6月に平安南道で撮られた映像。
やつれ果てた女性がうろついている。23歳だという。撮影した金東哲(キムドンチョル)氏によると、デノミの後の経済混乱で、父も母も死に、家を失ってホームレスになったそうだ。ウサギの餌になる草を集めているという。
北朝鮮では子どものいる家庭では、ウサギを飼うことが義務付けられている。軍に毛皮や肉を納めるためで、庶民には大きな負担だ。そこでウサギの餌用の草が売り買いされるのだ。http://www.asiapress.org/apn/archives/2010/10/07200145.php
撮影した金氏から石丸氏に届いた情報では、この女性は、10月にトウモロコシ畑で死亡したという。
また、女性が警察官に向かって猛烈に罵り、何度も警官の胸を手で突きまわす映像もあった。衆人の前での出来事である。
番組では説明できなかったが、これはトラックの荷台に人を乗せる商売をする女性が、賄賂を要求してきた警察官を撃退しているのだという。
実はトラックは警察の所有で、警察は民間人にこれをレンタルして金を稼いでいる。女性はその商売を仕切る、いわば社長で、あんたなんか木っ端警官にたかられる筋合いはないよ、と強く出ているのだろう。
まさに、カネだけがモノを言う世の中。かつては権力機関の人間に庶民が楯突くなど、考えられなかったと石丸次郎さんはいう。
以上は、すでに8月の報道ステーションなどで放送されたから、覚えている人もいただろう。
今回のサンデーフロントラインの初出し映像は、平安南道の道庁所在地、平城(ピョンソン)市の市場だ。撮影はやはり金東哲氏。
平城は、首都平壌の北に位置し、中国の丹東(タンドン)と平壌を結ぶルートと、日本海側からの半島横断幹線道路が交わる物流の要だ。平城には、「北朝鮮市場経済の勃興」を象徴するような大きな市場があり、一昨年の市場の映像では、豊富な物資と人々で活気にあふれていた。
それが、今年10月に撮影された市場の最新映像では、人はまばら、売り子のいない空いたスペースがいたるところに見られ、商品の種類、量とも激減している。これはいったい何だ?
撮影者によれば、平城市内には体育館のように大きな市場があったのだが、おととし、当局によって閉鎖され、この場所に移されたのだという。
新たな市場は、山を越えた辺鄙なところに位置し、売り手も買い手も不便で困っているそうだ。そこに、デノミで大量のタンス預金を紙くずにし、庶民の商売の元手を強奪するという措置がかぶさってきたのだから、物流が滞るのは当然だ。
買い物は市場でなく、国営商店でするように、とのお達しもあったという。しかし、そもそもモノがない。全国が大混乱に陥る中、ハイパーインフレが起き、食べ物が買えない人々が飢えているという。
デノミは市場経済圧殺の一環で、稀代の悪政だった。
(つづく)