朝鮮学校の無償化論議に思う4

総連にかかわった人々の証言によれば、この組織は、設立当初から北朝鮮の対日工作を担う組織であり続けている。
ただ、拉致など特定の極秘工作については、総連の組織自体を経由するものではないと私は理解していた。
北朝鮮工作員が日本に潜入する場合、協力者が要る。これを「土台人」(トテイン)という
が、「帰国者」つまり1959年からの「帰国事業」で北朝鮮に移住した在日朝鮮人の親族などがこれにあたる。工作員はその親族を訪ね、北朝鮮にいる子どもや兄弟の手紙や音声テープを示す。そこには「お願いですから、この手紙を持っていく人を助けてください」などと書かれている。親族が北朝鮮で「人質」になっている限り、その要請を断ることはできない。
総連そのものは関与せず、協力者は個々に「一本釣り」されると理解してきた。
前回紹介したAさんの話が事実とすれば、拉致が総連ルートで指令された疑いが強くなる。
そんなとき、ある人を介して、70年代に総連の中央委員をつとめた元幹部に会った。喫茶店で話を聞けるという。そこには髪の薄くなった初老の男性がいた。
「いま判明している事例以外に、拉致事件はもっとあると思いますが、個人的にご存知のケースはありますか」
《ええ、いろんな話を聞きましたよ》
彼はすんなりと肯定した。
「拉致に誰が関与したかも、わかっているんですか」
《そういうことは互いにしゃべらない約束だから、面と向かって確かめたことはないが、同じ組織にいれば分かりますよ》
「それは、あなたが特別な立場だったからですか」
《いや、私のまわりの人たちはみな、少なくともうすうすは知っていますよ》
「ご存知の拉致について日本の当局に明らかにするつもりはないんですか」
彼は笑ってこう答えた。
《拉致だけじゃなくて、いろいろあるけど、みな墓場まで持って行きますわ。しゃべっても面倒に巻き込まれるばかりだから・・・》
総連の中央委員クラスになると、総連関係者が拉致事件を起こしていることを当然のように知っているようだ。ここまでくると「組織的関与」という表現が可能になるかもしれない。
朝鮮学校については、こうした総連という組織の歴史、性格を考慮したうえで論じなければならないのではないか。
ふり返れば、原敕晃(はら・ただあき)さんが拉致された、いわゆる辛光洙(シングァンス)事件では、総連の幹部が直接に関与した疑惑がもたれていた。
原さんは大阪商工会の理事長の経営する中華料理店の店員で、理事長と商工会会長などの協力のもとに宮崎県の海岸から北朝鮮に拉致されている。
http://nyt.trycomp.com/modules/news/print.php?storyid=4681
商工会会長には、北朝鮮に「帰国」した息子二人がおり、辛光洙は彼らの手紙と写真を会長に見せて協力者にしたことになっている。しかし、その筋書きは、あくまで辛光洙が逮捕後、韓国当局に語った内容であり、再検討が必要かもしれない。