サンプロの思い出2−偽ブランド

takase222009-12-23

きょうは取材で慶應大学(三田)に行った。
大木が歴史を感じさせる。祝日でがらんとしたキャンパス。冬枯れのイチョウが青空に見事な枝を広げていた。
さて、サンプロの思い出だが、あるとき、私たちは、取材のため有名小売チェーンの社長を訪ねた。
会うなり、社長は私たちに深々と頭を下げてこう言った。
「いま会社の業績が芳しくないのです。ここで放送なんかされたら、つぶれてしまいます。お願いです。取材をやめてください。取材をやめてもらうためには何をしたらいいのか、言って下さい。何でもしますから。」
ジン・ネットは、欧米の高級バッグやアパレルの偽ブランドが、大量に日本で売られている構造を暴いた特集シリーズをサンプロで放送した。番組では、偽物を売ったとして、ダイエーイトーヨーカドージーンズメイト、ライトオンなど錚々たる大手小売会社の名前を挙げた。
偽ブランドを扱う他の番組では、隠しカメラで小売店の中に入ってニセモノが売られていることを見せる一方、店の外観にはボカシを入れてどこか分からないようにするのが普通だ。しかし、私たちは、消費者に直接にニセモノを売り渡したのがどの小売店なのかを報じることが消費者の利益になると考えた。扱う商品の真贋も分からないで売っていたことの責任は免れられない。
CMを出してくれる有名企業を叩くとなれば、当然テレビ局の営業からは強い圧力が来る。もう少しでお蔵入りかと危ぶまれたが、特集を担当した弊社の望月ディレクターは、ニセモノを売った小売会社を出さなければ意味がないとがんばって、結局、全部名指しで放送した。
冒頭のシーンは、その取材での一コマだ。取材をやめれば「何でもする」。どういう意味だろう。その会社を出てから、望月ディレクターに話しかけた。
「さっきの話は、お金をやるから『金額を言え』ということだよね」
「明らかにそうでしょう」
「何百万円かな」
「いや、一桁違うんじゃないですか」
「じゃあ、うちの会社の借金、それで返せたかも(笑)」
番組にはその会社も名指しで登場させたのは言うまでもない。
あのとき、社長さんがとても脅えているのを見て、「マスコミは権力」という言葉が頭をよぎった。この「権力」は使い方を間違えると大変なことになりそうだ、とも思った。
それにしても、サンプロという番組の世の中を動かす力はすごかった。放送直前、すべての全国紙に大手スーパーはじめ大手小売会社が、一斉にリコールの広告を掲載した。一瞬にして業界が浄化されたと、後々まで語り草になったものである。
(つづく)