きのうのNHKスペシャル「セーフティーネット・クライシス vol.3しのびよる貧困 子どもを救えるか」はショッキングだった。以下は番宣より。
《経済危機が深刻化する中、大量解雇の波は、非正規労働者ばかりか正社員にまで及んでいる。世帯主の失職の影響から、いま「子どもたちのセーフティーネット」が危機に瀕している。
OECDは、日本の「子どもの貧困」が際立って加速していると警告した。給食費や教材費が払えず小中学校への通学も難しくなったり、貧困から高校を中退せざるを得ない子どもが急増している。背景には、日本の社会保障制度が「正社員」を前提に設計されたまま、抜本的な見直しが行われていない点がある。子育て世代に当たる20代〜40代の、4割近くが低所得の非正規労働者であるにもかかわらず、子どもの医療費、教育費、住宅費、食費等の負担は、正社員家庭と同じく一律に求められ、貧困に拍車をかけているのだ。
子どもたちの「健全な育ち」を保証する「人生前半の社会保障」を築くには、どのようにセーフティーネットを張り替えていけば良いのか。番組では、日本の子どもたちの現状を検証し、さらにフィンランドなどの先進的な取り組みも紹介しながら、子どもたちのための社会保障・セーフティーネットのあり方について考えていく。》
朝食抜きで登校し、朝一番に保健室で学校で余った牛乳を飲む小学生たち。リストラにあった親に習字道具を買う3000円を言い出せずに肩身の狭い思いをする子、保育所に空きがなく、二人の幼児を抱えて途方にくれるシングルマザー・・・。
番組を観た人に聞いたら、みな涙が出そうになったと言う。どこが経済大国なんだ、と恥ずかしくなったし、将来のことを考えると暗澹とした気持ちになる。たとえば、あのシングルマザー、月に手当てとアルバイトで収入8万円と言っていたが、このままだと子供たちは高校には行けないだろう。いや、その前に、あの子たちは格差の現実を見て、人生から「おりて」しまうんじゃないだろうか。
スタジオには山井和則厚生労働政務官が出演したが、「この番組に出る前に長妻大臣と貧困率を出そうと話してきました」と言った。さっそく、これがきょうのニュースになっていたが、この番組が事態を動かしたわけである。驚くことに、日本はこれまで、国民のどのくらいが貧困の状態にあるかという調査をして統計(貧困率)を取ったことがないのだ。貧困対策は、ここから始まるのである。
スタジオの議論は非常に的をついた積極的なもので、まずは緊急に、雇用対策、子ども手当てや奨学金制度の整備、公立高校無料化などセーフティネットの補強をするとともに、中長期的には、新しい産業を作り出すべきだという結論になった。
きのう書いたように、電器や自動車といった花形輸出産業は日本を見捨てる方向にあって、今後、日本国内での雇用は期待できない。次世代の若者たち、子どもたちにどんな仕事口を作っていけるかの方策を早急に立てないといけない。
「次の産業」を作って育てるためにも、国民の教育の水準を高めることが大事だ。番組では、フィンランドがお手本のような形で取上げられていた。日本なら義務教育でも、さっきの習字道具じゃないが、いろいろとお金がかかる。一方、フィンランドは小学校も大学も無料。教科書、鉛筆、ハサミなどの学用品もみんな学校が提供するから本当にタダであるうえに、厚い手当てがある。フィンランドのシングルマザーが、子どもの教育に全く不安を感じていないと笑ったが、羨ましかった。小学校は20人学級で先生が二人つくから、教育の質も高くなる。フィンランドは90年代はじめ、深刻な経済危機に襲われ、失業率が20%近くまでになった。若者は薬物におぼれ、社会はすさんだ。そこで、造船など衰退しつつあった重厚長大産業から脱して、新しい産業を生み出そうと、苦しい財政のなかから教育に予算をつぎ込んだ。携帯電話世界一の「ノキア」が成功する基盤はこうしてできた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20071207
山井議員といえば、私は彼の『体験ルポ−日本の高齢者福祉』(岩波新書)を読んだことがあるが、福祉・介護関連に非常に詳しい。スウェーデンに二年留学したこともあって、北欧事情にも明るいので期待している。とりあえずセーフティネットの「張り替え」を急いでもらいたい。