戦争をふりかえる

takase222009-08-16

13日の夜、ジン・ネットでささやかな暑気払いをやったのだが、そこにバクパイプを持って加藤健二郎さんが来た。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090730
最近は結婚式や老人ホームなど呼ばれる場所も多様化しているとのことで、スコットランドの曲のほか、赤とんぼなど日本の歌も演奏してくれた。室内用に音を小さくしたそうだが、それでもそばで聞くと圧倒される迫力である。

戦争ジャーナリストとしても活動していて、対馬北朝鮮ゲリラ部隊が上陸した場合のシミュレーションなど、生々しい話も聞けた。
暑気払いには、映画『花と兵隊』の監督、松林さんも来てくれた。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090801
ちょうど8月初旬から上映で、タイミングはよい。彼はまだ30歳だが、終戦後も日本に帰らずにタイ、ビルマにとどまった日本兵を2年近くにわたって追った。13日の夜NTVニュースZEROで松林さんとこの映画について特集を組んでいた。15日には舞台挨拶もあったという。
《祖国に帰らなかった日本人兵を取り上げたドキュメンタリー映画「花と兵隊」の終戦記念日舞台あいさつが15日、都内で行われ、監督の松林要樹(30)が登場した。太平洋戦争後もタイ・ビルマに残り、新しい家族をつくった6名の「未帰還兵」の人生を追った作品で、老若男女が詰め掛けた。中東、東南アジアなどの映像取材経験を経て、3年間にわたり製作に取り組んだ松林は「劇中にいろんな花が出てきます。彼らの家族も“花”ですし、日本兵の1人が極楽浄土への思いを託したハスの花、望郷のイメージとしての桜の花などです」とタイトルの意味を説明。「この映画ができたことで、彼らが日本に帰って来ることができたんだと思いたい」と作品への思いを語った。》(NTVニュース)
今年の夏のテレビの戦争ものはとても重厚で面白い企画がそろっていたと思う。

NHKスペシャルでは9日から3夜連続で「日本海軍400時間の証言」を放送した。第一回は開戦。
《「海軍反省会」。戦後35年が経過した昭和55年から11年間、海軍の中枢・『軍令部』のメンバーが中心となって秘密に集まっていた会合である。70〜80代になっていた彼らは、生存中は絶対非公開を条件に、開戦に至る経緯、その裏で行った政界・皇族・陸軍などへの働きかけなどを400時間にわたって仲間内で語っていた。戦争を避けるべきだと考えながら、組織に生きる人間として「戦争回避」とは言いだせなくなっていく空気までも生々しく伝えている。太平洋戦争で亡くなった日本人はおよそ300万人。アジアでは更に多くの人命が失われた。当時の日本のエリートたちはなぜ開戦を決意したのか。彼らが残した教訓とは何か。シリーズ第一回は太平洋戦争に突入していく経緯を当事者の証言から浮か
第2回は特攻、第3回は戦犯裁判に焦点をあてていずれも力作だった。これだけシリアスな企画なのに平均10%近い視聴率をあげたというのは、日本人がいかに真剣に戦争の意味を問い続けているかを示している。
「日本人は忘れっぽくて戦争の記憶をとどめていない」とはよく聞くが、以前からこの評価には疑問だった。というのは、抗日戦争や日本からの独立が国家のアイデンティティになっている中国、韓国は別として、アジアのさまざまな国々と比較して、日本は長期にわたって戦争の意味を論じ続けている国だと感じていたからだ。
戦争の当事者だから当たり前とも言えるが、私を含む日本人は、今もあの戦争をどう解釈すべきかと煩悶していると思う。
インドシナ諸国では《戦争》と言えば、ベトナム戦争カンボジアをめぐる戦争であるし、日本兵だけで50万人という中国に匹敵する犠牲をだしたフィリピンでもあの大戦にはほとんど触れられない。
韓国のある知識人と話していたら、「韓国人は忘れっぽい民族で、歴史から教訓を学ばないので困ります」と真顔で言ったので仰天した。韓国の若い人が、秀吉の朝鮮出兵までさかのぼって日本を糾弾することは知られているが、どうやら韓国における歴史意識は、ある特定の側面に関するものが教育によって増幅されているようだ。

対して日本では、毎年、戦争に関する新たな資料、証言を精力的に発掘し、今なお様々な角度から分析、評価を加えている。これが歴史学会の専門家だけでなく、マスコミや市民の間で受け継がれているのがすごい。問題は、戦争史の新たな発見や分析が政府ではなく民間によって担われていることだ。
政府は戦後ずっと、記録を抹消し、事実を隠蔽する側に回ってきたのだ。「日本海軍400時間の証言」でも、第3回では、戦犯裁判で不利にならないように海軍OBが事実を捻じ曲げたとの証言が紹介された。

16日のNHKスペシャル「気骨の判決」もすばらしかった。
昭和17年、当時の首相・東条英機は政府に反対する国会議員を排除するため、衆議院を解散、総選挙を行なった。政府に非協力的な候補には露骨な選挙妨害が行なわれ、政府主導の大政翼賛会議席を独占した。
選挙後、鹿児島選挙区の落選議員・兼吉征司(渡辺哲)を始めとする各地の候補者・有権者から選挙無効の訴えが大審院(現在の最高裁)に起された。裁判官の多くは時局を気にして尻込みするが、裁判長・吉田久(小林薫)だけは持ち前の実直さで取り組む。・・・》
結局、吉田は大変な妨害と圧力のなか、選挙の無効、やり直しを命じる判決を下すのだ。私はこういう人物の存在自体を知らず、番組を観て感動した。
ジン・ネットはフジの特番でマニラ裁判で有罪になった日本軍BC級戦犯の話を取材中だが、日本で戦争の意味を問い続ける作業はまだ衰えていない。