ここまでいうか人工衛星のウソ

takase222009-04-12

きょう、サンプロで「テポドン2発射」の緊急特集第二弾を放送した。
私は日本国内の取材を担当したが、アメリカと韓国そして空振りに終わったがもう一つの国まで取材班を出した。最後の素材はきのうの朝、アメリカから衛星で送信されてきて、私も一部翻訳を受け持った。約25分のVTR制作作業が終わったのはきょうの放送中の10時半ごろ、ぎりぎりまでドタバタだった。
私は、今回の「テポドン2」には人工衛星が積まれていたと推測している。ただ、打ち上げを動機付けている目的は軍事用ミサイル開発に違いない。つまり、衛星用ロケットとして弾道ミサイル実験を行なったと思う。
取材を終え、北朝鮮の「人工衛星」打ち上げには、あの国の本質が現れているとあらためて感じた。
衛星は軌道に乗らなかった。ロシアや中国でさえ「失敗」と見る。しかし、北朝鮮だけは衛星は成功し地球を回っていると主張している。
国際政治でのウソはいろいろある。
「ある」ものを「ない」というケースとしては、たとえば「我が国は核開発など行なっていない」という声明などがある。「解釈」によって「ない」とする場合もある。中国は脱北者について「難民などいない」というが、これは「不法越境者」とみなすからであって、脱北者の存在自体を否定しているのではない。
「ない」ものを「ある」という場合は、事実を捏造することになるが、北朝鮮の発表の仕方はとても興味深い。単に「成功した」と言って、あとは黙っておけばいいものを、わざわざ、ディテールを発表するのである。
以下は、4月5日の打ち上げを報じる「朝鮮中央通信」だ。
《わが国の科学者、技術者は国家宇宙開発展望計画にしたがって運搬ロケット「銀河−2号」で人工地球衛星「光明星2号」を軌道に進入させることに成功した。
 「銀河−2号」は2009年4月5日、11時20分咸鏡北道花台郡にある東海衛星発射場から発射され、9分2秒後の11時29分2秒に「光明星2号」を軌道に正確に進入させた。
 「光明星2号」は40.6°の軌道傾斜角で、地球から最も近い距離で490キロ、最も遠い距離で1426キロの楕円軌道を回っており、周期は104分12秒である。
 試験通信衛星である「光明星2号」には必要な測定機材と通信機材が設置されている。
 衛星は自らの軌道を正常に周回している。
 現在、衛星からは「金日成将軍の歌」および「金正日将軍の歌」のメロディーと各種測定資料が470MHzの周波数で地球上に電送されており、衛星を利用したUHF周波数帯域での中継通信が行われている。》

すぐにばれる嘘を国家レベルで堂々とつくのだ。こんな国は北朝鮮しかない。
98年のテポドン1の衛星発射のときは27MHz(メガヘルツ)で「金日成将軍の歌」を送信していると発表した。だが、この周波数だと電離層に反射して地球に届かないので衛星で使用するはずがないことを多くのアマチュア無線愛好家が指摘していた。その一人は当時、ブログで430MHz帯を使用するよう北朝鮮に(冗談で)「アドバイス」(?)していた。今回周波数を470MHzに上げてきたのは、まさかそのせいではないだろうが、面白いので紹介しておこう。http://www.memenet.or.jp/ncrip/nc981009.htm
写真は、総務省関東総合通信局(神奈川県三浦市)のアンテナ。左の二つが静止衛星用で、右が周回衛星用。北朝鮮の見えざる「衛星」はぐるぐる地球を回る周回衛星で、右のアンテナで、空から降ってくる470MHzの周波数を打ち上げ以降24時間態勢で監視している。当然ながら信号は入ってこないという。
470MHz以上の周波数帯は、総務省が日本のテレビ放送に割り当てており、衛星が勝手に使用できない。衛星は必ず電波を出すから、打ち上げる前にITU(国際電気通信連合)に打ち上げ計画を届け出て、使用できる周波数を割り当ててもらわないといけない。北朝鮮は加盟国だが、この手続きを一切やっていない。http://sankei.jp.msn.com/world/korea/090403/kor0904031808002-n1.htm
ここで、北朝鮮ははじめから、通信衛星を打ち上げようなどと考えてはいなかったことがはっきりする。
ITU規定では打ち上げの7年から2年前の間に届け出ることになっている。ジュネーブITU本部に電話して聞いてみたら、今年2月に自前の衛星打ち上げを成功させたイランはしっかりと手続きを踏んでいた。いつも北朝鮮と並んで悪者扱いされるイランだが、こちらは本気で衛星打ち上げに取り組んでいたのである。
さらに気になるのは、打ち上げ時刻である。実際の発射が「11時30分すぎ」だったことは国際的に確認されている。北朝鮮はそれを今も「11時20分」と言い張っている。全世界に逆らってでもあくまで「11時20分」なのである。これはなぜか?
将軍様が「発射は11時20分」と決めたからだろう。べつに10分くらい違ってもかまわないではないか、と我々は思うのだが、かの国ではそうはいかない。将軍様の考えたことは「現実」そのものでなくてはならない
世界に独裁国家はあまたあれど、ここまで異様な現象は、北朝鮮にしか見られない。北朝鮮は「普通の独裁」ではないことがここに端的に現れている。(http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080128参照)
「生存している拉致被害者はいない」
北朝鮮が何度も繰り返しこう言うからには、ひょっとして本当にみんな亡くなっているんじゃないか、などと考える必要はないのである。