二十年近く前のことを急に思いだした。
ある民放キー局に行ったら、知り合いとばったり顔を合わせた。報道局で元気に記者をやっていた男だが、こんど異動になったという。久しぶりなので飲みに行こうということになった。
テレビ局の近くの店に入った。彼の新しい部署は営業で、いくつか担当の企業を持たされているという。テレビでよくCMが流れる、誰もが知る大企業数社の名を彼は挙げた。
飲んでいると、彼のポケットベルが鳴った。「ごめん、ちょっと不祥事があって」と急いで局に戻っていく。しばらくして、「片付いた」と笑いながら彼は店に戻ってきた。
担当している大企業の社員が、警察沙汰になったのだという。彼がやったのは、その事件が彼のテレビ局ニュースで流されないようにすることだった。それがスポンサーへのサービスなのだという。
ついこないだまで報道の現場でバリバリやっていた彼が、今はニュースを握りつぶす側に回って、それを軽々とこなしていることに少なからずショックを受けた。
先輩にこの「事件」を訴えたら、「それが商業放送というものだよ」と諭されたのだった・・・・
いま、日本を代表する大企業が軒並み赤字になるという異常事態だ。テレビ界でもキー局までが赤字の危機にあえぐなか、CM出稿してくれる企業の存在は一段とありがたくなってくる。
ちょっと古い話になるが去年11月、トヨタ相談役がテレビを恫喝した。
《政府の「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」の奥田碩座長(トヨタ自動車相談役)は12日に首相官邸で開かれた会合で、厚労省に関するテレビなどの報道について、「朝から晩まで年金や保険のことで厚労省たたきをやっている。あれだけたたかれるのは異常な話。正直言ってマスコミに報復してやろうか。スポンサーでも降りてやろうかと」と発言した。》(時事通信)
これは、CMを出稿する企業の立場を利用して政府批判を封じるという露骨な物言いである。企業の立場がますます強大になっていることを考えると、この恫喝は真に迫っている。
新聞はテレビ以上に経営が苦しいという。大新聞への「聖教新聞」の印刷委託は重要性を増している。これでは創価学会、公明党へのまともな批判はいっそうタブー視されるだろう。
はるか昔の「それが商業放送というものだよ」という先輩の言葉を急に思い出したのは、こんなご時勢だからだろうか。