共産主義との決別

元旦のブログをどんな方向にもっていったらいいか迷っている。
自分の思想的変遷というと大げさだが、もし今も共産主義者であれば、「覚り」を求めることはなかったと思うので、そのへんの事情を書いておきたい。
「人間の本質は、社会的諸関係の総体である」というマルクスの言葉がある。
私は、人間の悩みも幸福も社会的なものだと理解した。そして、社会改革ですべての問題は解決すると思って共産党の運動に加わったのだった。
運動に疑問を抱くようになったきっかけは、党内で起きた二つの事件だった。
一つは、私が運動を始めたばかりの1972年に起きた「新日和見主義事件」だ。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%97%A5%E5%92%8C%E8%A6%8B%E4%BA%8B%E4%BB%B6
私の記憶ではこうだった。民青(民主青年同盟、共産党系青年組織)の大会の決議案が、中央から下部組織に下りてきた。私たちの「班」では全員「賛成」して結果を上に報告した。不思議なことにしばらくすると、もう一度決議案が下りてきた。最初のものは「誤った」ものだったという。どこが違うのかも分らないまま、再び、「班」の全員が「賛成」して上に上げた。
そして党中央は「新日和見主義」批判の激しいキャンペーンを始めた。青年運動を中心に一部のグループが分派活動をしているという。赤旗はもとより、組織内の文書には、一方的な情報しか載っていない。上部機関からは強い「指導」が来る。我々下部の活動家は驚き、当然のごとく「とんでもないやつがいるものだ」と分派主義者を批判し、党中央を支持した。
その直後に民青の全国大会で選出された中央委員は、圧倒的多数が新顔だった。前の中央委員の半分以上が外されたと記憶している。大粛清事件といってもいいだろう。
この事件について、日本共産党の70年史は、《「新日和見主義分派」を粉砕した》と、こう誇らしげに書いている。
《72年5月、広谷俊二らの『新日和見主義分派』が摘発された。かれらは、党と同盟にかくれて民主青年同盟中央委員会内に反党・反同盟の分派を組織し、民青同盟にたいする党の指導に反対して、民青同盟を党に対抗する反党分派活動の拠点に変質させようとした。この『新日和見主義』、分派主義のアメリカ帝国主義美化論や日本軍国主義主敵論、党勢拡大を独自の課題としてとりくむことに反対する危険な傾向にたいし、72年7月の第7回中央委員会総会(第11回党大会)、同年9月の第8回中央委員会総会(第11回党大会)は、新日和見主義、分派主義の問題を解明し、これとの闘争の重要性を強調した。党は、理論上、政治上、組織上の徹底した批判と闘争をおこない、『新日和見主義分派』を粉砕した。この闘争は、民青同盟が一時期の組織的停滞を克服し、あたらしい発展と高揚の方向をかちとるうえでも、重要な契機となった》http://www.geocities.jp/sazanami_tsushin/sazanami/031/07.html
あとで、学生に人気のあった川端治(=山川暁夫)氏が「シンヒヨ」(新日和見主義)で「粉砕」されたと聞いた。ジャパンプレスサービス(JPS)という共産党の影響力の強い通信社のトップで、私も講演を聞いたことがあるが、すごいアジテーターだった。講演が終わると、明日にでも革命が起きるのではないかと感動しぞくぞくした。
また、同じJPSにいた高野孟氏も首謀者とみなされ査問されたことをこう回顧している。
JPSでは党支部の総会が開かれ、中央から上田耕一郎(現幹部会副委員長)が乗り込んできて、川端と私が陰謀の首謀者としてさんざん糾弾され、そのまま上田に連れられて党本部に出頭させられ、1週間にわたり監禁され、査問された》http://www.smn.co.jp/takano/who.html
シンヒヨなどは自分とは関係ないことかと思っていたら、私の同じ大学の先輩も共産党中央の「査問」を受けていたことを知り、「とんでもないやつ」が身近にもいたことを知った。
このときの査問については、さまざまな人が発言しているが、加藤哲郎氏のサイトも参照されたい。http://homepage3.nifty.com/katote/samon.html
私は、上の「70年史」に出てくる広谷俊二氏(ひろや・しゅんじ、党中央委員)に直接会いに行ったことがある。
広谷氏はシンヒヨと糾弾されたなかでは唯一の党中央委員で、除名処分を受けた。
共産党の「民主集中制」の原則では、党員は、縦割りに組織され、系列外の組織に接触してはならない。隣町に友人の党員グループがいても彼らと議論をしてはならない。
ましてや広谷氏は党中央に巣くう悪辣な分派主義者の頭目である。私が彼に会うこと自体、重大な規律違反となる。しかし、本当に「とんでもないやつ」なのか確かめたかったのだ。
(つづく)