脱北者を受け入れる意味―北朝鮮人権法

takase222008-11-30

ゆうべ、サンプロの打ち合わせでテレ朝へ。写真は玄関そばの年末恒例のイルミネーション。また一年が終わるのだなあ。
きょうサンプロ特集「独走追跡 脱北者漂流―日本定着への障壁」を放送、スタジオ出演した。先週やるはずが、元厚生次官殺人犯自首で1週遅れの放送となった。
《今、日本で暮らす脱北者が急増している。
その数、約170人。そのほとんどは1959年から始まった「帰国事業」で北朝鮮に渡った在日朝鮮人、日本人配偶者、そしてその子供たちだ。
朝鮮総連が主導したとされる帰国事業は、実は日本政府、マスコミが後押ししていた。「地上の楽園」、「限りなく自由で幸福な祖国」を夢見て北朝鮮に渡った「帰国者」を過酷な運命が待ち受けていた。
5年間にわたる長期密着カメラは、決死の脱北の瞬間から、脱北者が日本で直面する困難、そして北朝鮮に戻る者までいる現実を、ありのまま捉えていた。
二代続けて政権を放り出すという前代未聞の福田前総理の辞任。それによって北朝鮮による拉致問題の再調査は先送りされた。
一方、2006年に成立した「北朝鮮人権法」で「保護と支援」が定められている脱北者たちも、日本政府に見過ごされ、日本社会を漂流している。その苦闘の実像を追った。》
サンプロの予告より)http://www.tv-asahi.co.jp/sunpro/
テレビと言うのはどうしても盛り込む内容が限られ、私はいつも欲求不満になる。そこでこのブログで補足してみよう。
2年前に制定された「北朝鮮人権法」(拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律案)いう法律がある。この法案は、自民党拉致問題の解決をめざすものとして作成し、民主党脱北者問題などを入れ込んで作られた議員立法だが、その6条にすごい規定がある。
「第六条 政府は、北朝鮮当局によって拉致され、又は拉致されたことが疑われる日本国民、脱北者北朝鮮を脱出した者であって、人道的見地から保護及び支援が必要であると認められるものをいう。次項において同じ。)その他北朝鮮当局による人権侵害の被害者に対する適切な施策を講ずるため、外国政府又は国際機関との情報の交換、国際捜査共助その他国際的な連携の強化に努めるとともに、これらの者に対する支援等の活動を行う国内外の民間団体との密接な連携の確保に努めるものとする。
2 政府は、脱北者の保護及び支援に関し、施策を講ずるよう努めるものとする。
3 政府は、第一項に定める民間団体に対し、必要に応じ、情報の提供、財政上の配慮その他の支援を行うよう努めるものとする。」

脱北者を、拉致被害者とならべ、北朝鮮の「人権侵害の被害者」と位置づけて保護、支援の対象としたのだ。これは画期的である。しかも、ここでは、日本から1959年以降北朝鮮に渡ったいわゆる在日帰国者とその親族に限らずに「脱北者」とだけ記されている。保護と支援の対象は、原理的に、日本と縁のない北朝鮮住民の脱北者も含まれるのである。
日本が脱北者を受け入れるということについては、左右両翼からの非難があった。
まず右翼からの非難。
《一度でも"前例"を作ってしまえば、雪崩式に朝鮮人が流れ込んでくる恐れがあります。
第一に、脱北者なんていう輩は同胞である韓国が受け入れるべきで、わざわざ日本が受け入れる必要なんてありません。》http://ameblo.jp/lancer1/entry-10013599172.html
この意見が載っていたのは拉致問題に熱心な人たちが集うサイトだ。というより彼らは「朝鮮嫌い」だから拉致問題で頑張るのではないかとさえ思われる。こういう人は、脱北者の問題になるととたんに冷たくなる。拉致議連自民党議員に多いタイプだ。
人権法6条に反対するデモまであった。
《「拉致被害者よりも北に尽くす法案」「北朝鮮人の日本への移住に反対」などと書かれたプラカードや横断幕を携え、主催者側の挨拶、杉並区議会委員である松浦芳子氏の檄などを受け、渋谷の街へと行進を始めた。(略)「800兆円も借金があるのに、脱北者の支援はできない」と声を上げ・・・》http://news.livedoor.com/article/detail/2128082/?rd
国会では共産党社民党が反対した。共産党のサイトによれば;
日本共産党笠井亮議員は、日本の主権を侵害した国際的犯罪行為である拉致問題と、北朝鮮の内政にかかわる「脱北者」問題を同列に扱い、政府に「施策を講ずる」ことは、「北朝鮮からの脱出の動きを促進することを国家の行為としておこなうことになり、内政問題への介入となる」と強調。》http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-06-13/2006061302_02_0.html
つまり、脱北者を保護、支援することは北朝鮮への「内政干渉」だと言うのだ。でもミャンマー難民の保護を共産党内政干渉といって非難しない。《ダブルスタンダード》とはこういうことを言うのだ。ミャンマーには厳しいけど、北朝鮮には優しいんだなあ。いくらいいことを言っても、左翼の議席が伸びない理由はここにある。
私が繰り返し触れてきた、《人権の棲み分け》がここにある。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20071103/
(つづく)