オバマが勝った

takase222008-11-05

予想通りにオバマが圧勝した。
オバマの勝利スピーチの時は仕事だったので、あとでユーチューブで観た。10分ほどの演説だった。実は私は、彼のスピーチを通して聴いたのはこれが初めてだ。オバマは4年前の民主党大会での名スピーチでデビューした人物だが、たしかにうまい。カリスマを感じさせるすごい人物だと思った。
内容も感動的だが、話しているときの表情がいい。全体として明るい人柄を感じさせ、誠実そうでしかも確信に満ちているのがいい。この危機の時代を乗り切ってくれそうな期待感を抱かせる。指導者として最も得をしていると思ったポイントは声だ。落ち着いた中にドスが効いている。
崇高な理想をかかげ、困難の克服は必ずできると励まし、聴衆は「イエス・ウィー・キャン」と叫んで盛り上がる。
Tonight we proved once more that the true strength of our nation comes not from the might of our arms or the scale of our wealth, but from the enduring power of our ideals: democracy, liberty, opportunity and unyielding hope.
and unyielding hope.
「我が国の本当の強さの源、それは武力や富の大きさではなく、我らの理想、すなわち民主主義、自由、機会、そして屈することのない希望にあるということを、今夜我々は再び証明したのだ」
こううたいあげて大観衆を感動させる一方で、二人の娘に「子犬もいっしょにホワイトハウスに行こうね」などと呼びかけるのだから、たまらない。すっかり引き込まれてしまう。
ベトナムで5年半の捕虜生活をしたマケインが、国家への忠誠とプライド、自立自尊などの価値を代表するとすれば、ムスリムの二人の父を持つオバマは、多民族共存、価値の多様性をイメージさせる。
オバマが大統領になったことで、世界の大多数の人にとってのアメリカのイメージがぐんと良くなったことは間違いない。ハマスカストロまでが喜んでいるくらいだ。
選挙直前、アメリカ国民の8割が「国は悪い方向に進んでいる」と考えていたそうだが、実際に投票行動によって国の舵取りを変えてしまった。アメリカは衆愚政治だと揶揄され、政治がドラマチックにショーアップされていることは承知しつつも、心が高揚する。これで日本でも他の国でも、政治に大きな変化が起きやすくなったはずだ。世界が変わりそうな予感を与えてくれる。
1986年、私はフィリピン大統領選挙で、独裁者マルコスに挑んだアキノ夫人の最後の大演説会を取材した。まだ政治家としては初々しいアキノが、「この国の前途は厳しい。国民のみなさんに犠牲を求める。しかし、みなさんよりも大きな犠牲を私が払うことを約束する」と訥々と話した。カメラのファインダーをのぞきながら涙が出てきた。「この人に勝たせたい」と心から思った。彼女が大統領になったとき、マニラ中がお祭り騒ぎだった。人々が通りに出て踊っていた。
だが結局、彼女は大統領として、これといって大きな実績を残すことはできなかった。
これまでのキラ星のような指導者たちはみな没落した。最後まで英雄だった人がいるだろうか?
ゴルバチョフ。世界からもてはやされ、ソ連崩壊、冷戦終了の立役者となった。しかし、最後は民心は離れ、誰からも相手にされない形で政治の世界を去った。
ポーランドワレサ。自主労組「連帯」のリーダーとして、世界的な英雄だった。大統領にまでなった。だが、2000年の選挙では泡沫候補として終わった。
金大中ノーベル平和賞をもらった政治家だったが、末期の支持率は10%台だった。
こうして、政治家の意味とは、その時代性にある。時代が、状況が、人を求めていく。時代が人を押し上げ、そして流し去る。
だが、それは意味がある。時代を進めていくのである。
いつかオバマが世界中を失望させるかもしれない。でもだからと言って、斜に構えていなくともよい。
大きな時代の「うねり」に期待し、今日くらいは、アメリカと世界の人々の希望に共感したい。