好きな事探す寂しさ

新聞各紙、それぞれ特徴があるが、「朝日」で好きなのは「朝日俳壇」だ。
選者がすごい。「ホトトギス」を継承した日本伝統俳句協会稲畑汀子氏と、これと真っ向から対立する自由俳句界の大御所、金子兜太氏がいる。当然、選ぶ俳句が全く違う。それがおもしろい。
きょうの稲畑選には、
颱風(たいふう)を引つぱつてゐる波頭
水底を渡りゆく雲秋の川
など、やはり正統派写生俳句という趣のものが選ばれている。いつもは、稲畑選がいいと思うのだが、きょうの金子選には引っかかる句があった。
  好きな事探す寂しさ猫じやらし
女性の句だ。子どもに「お母さんもやりたいことを見つけたら」と言われたのか、あるいは「趣味に生きる老後」「いきいき高齢者」などという新聞特集でも読んだのか、はて、私って何が好きなんだろうと、ぽつんとつぶやいているおばあさんの姿を想像した。
戦後の激動の時代を身を粉にして働き、子育てしてきた世代なのだろう。気がついてみると、取り立てて「好きな事」などなかったりする。
ごくろうさま、そのままでいいですよ、と言ってあげたいところだ。だが、子どもの進路や就職をはじめ、何かというと「好きなこと」「やりたいこと」を見つけることが強いられるご時世。高齢になっても「自分探し」をしなくてはならないらしい。いろんなことを考えさせられる句である。

隣のコーナーの「朝日歌壇」も高い権威を持つ。横田早紀江さんの短歌が何度も選ばれている。
短歌は俳句よりはるかにメッセージを強く出すことができ、特に朝日歌壇は社会派も多い。きょうの選にも政治スローガンのような歌があった。
  核保有の歪(いびつ)なバランス強制し銃を枕にして眠る国
これはアメリカのことだろう。この手の歌は、ちょっと苦手である。
面白いと思ったのは次。
  「理由(わけ)あり」と書かれて安き傷りんご買う私も理由ありなれど
いいなあ。
朝日の俳壇、歌壇は週に一度の楽しみである。