北朝鮮はそんなにすごいのか5

国がめちゃめちゃになっていることには、さすがに首領様も気がついていた。
とくに経済の失敗については、金日成は非常に気にしていたらしい。金日成は、94年7月の死の直前「経済活動家協議会」を開き、絶望的なエネルギーと農作物、消費物資の不足への対策を指示していた。その直後に発作を起こしたとされ、心労が彼の死を速めることになったとの説がある。
息子の金正日の正式な肩書きは「総書記」ではなく「国防委員長」だ。彼は経済にはタッチしないという立場をとっている。96年の「12・7秘密演説」では、こう言っている。
「首領様(=金日成)におかれては、生前に、私に絶対に経済事業に巻き込まれてはだめだとおっしゃいながら、経済事業に入り込むと党事業もできず、軍隊事業もできないと何回も念をおされました。今日の複雑な情勢の中では軍隊を強化することが何よりも重要であるので、私はしばしば人民軍部隊を現地指導しています」。
ボロボロの経済の責任は自分にはないぞ、自分は軍隊だけに専念するのだからな、と開き直っているわけだ。このことは、国内経済の破綻を逆説的に示している。
北朝鮮内部からの通信『リムジンガン』創刊号には、「ミサイルと核騒動―北の民衆はどう見たか」という特集がある。
北朝鮮のミサイル発射のため国連安保理で《朝鮮に不利な決議案を採択したという知らせが、朝鮮の新聞や放送、テレビ、組織別講演を通じて伝えられると、人々の不満は、国際社会ではなく、むしろ朝鮮政府に向かう結果となって現れた》とし、北朝鮮内部で録音された民衆の声を紹介している。
「必要もないのになんでミサイルなんか撃ったんだ?静かにしていれば何事もなく、もらえるものはもらえてうまくいっていただろうに」
「ミサイルみたいなものを発射するお金があるなら、栄失(栄養失調)にかかった兵隊に栄養を与えてやればいいのに」。
核実験についてのある幹部の感想はこうだ。
「大勢の人々が飢え死にしていることを当然分っていたのに、食糧配給制をちゃんと維持していくためではなく、自分たちの安全のための核実験準備には莫大な金をバンバン使ってしまったわけだ」。
将軍様の核外交を、北朝鮮人民は、とんでもない愚策だと怒りをもって糾弾している。
ところが北朝鮮以外の世界は将軍様を「外交上手」で「したたか」と賞賛するのだ。
(つづく)