金正日体制打倒と外交2

takase222008-06-20

拉致問題の全面解決のためにも「日本政府は金正日体制を崩壊させる立場に立つべきだ」と私は主張するが、これに対して、それは相手を否定することになり、拉致問題の交渉が成り立たなくなるのではないかとの疑問がよく寄せられる。
しかし、戦後の東西冷戦を含む世界の外交史は、相手国を打倒しようとの思惑を秘めながら交渉で切り結んできた歴史に彩られている。外交のアート(技術)はそうやって磨かれてきたのだ。
ところが、日本政府は、この立場に立つことを拒否するだけでなく、逆に金正日体制を強化することさえ願っているらしい。特定失踪者問題調査会の荒木和博代表のブログによれば、最近、内閣官房拉致問題対策本部事務局の総合調整室長、河内隆氏は長文の手紙を拉致被害者の家族に送った。5月20日付けのこの手紙には、驚くべきこんな文章が並んでいる。
《ここで御留意頂きたいのは、日本政府が北朝鮮当局を相手にして外交交渉で問題解決をしようとする以上、日本政府自身が金正日体制打倒を方針とするならば、そんな相手方とは北朝鮮は本気で交渉テーブルにもつかないことになってしまう点です。
現体制下では(北朝鮮当局のある特定の部署により)拉致被害者の情報がしっかり管理されているだろうから、しかるべき人の「決断」さえ示されて「解決」に向かう方が、体制が転覆され大変な混乱状態の中でよりは、拉致被害者救出に現実として適するという側面もあると判断されるからです》http://araki.way-nifty.com/araki/2008/05/post_7a22.html
これは河内隆氏個人ではなく官邸の立場で書いているに違いない。これが日本政府の立場だと思うと、情けなさが募ってくる。
そもそも、相手を「崩壊させる方針」は、政府が腹を決めればすむことであって、相手に宣言したり明示したりする必要などない。崩壊させる決意を胸に、外交官は満面の笑みで握手しながら交渉に臨めばよいのだ。
この手紙は、かつて日本が北朝鮮に「交渉テーブルについてもらうために」、さまざまな「善意」を示してきた過去の失敗を彷彿とさせる。
さらに問題なのは、拉致問題は、今の体制が維持されたまま、「しかるべき人」(つまり金正日)の善意によって解決しようという点である。本気でそう考えているのだろうか?暗澹たる思いになってしまう。
全体主義は、その国家だけでなく、周りの国はじめ世界に毒を撒き散らすもののようだ。
憂鬱な話になったので、雨に咲くドクダミの花で気分転換。ものすごい繁殖力を持ち、この季節、どこでもドクダミの群生を見ることができる。名前は「毒止め」から来たとの説がある。日本では嫌われるが、西洋では、東洋のエキゾチックな花として植えて鑑賞するという。雨に咲く四片の白い花(これは本当は葉の変形したもの)が清楚である。