ユニークな日本の老舗文化−2

創業百年以上の古い会社や店が十万もある。こんなことは、「世界の中で日本にだけ見られる特異な現象」らしい。ヨーロッパと比較しても、圧倒的に日本の方が多い。
ではアジアはどうか。日本以外は、歴史ある会社や店が非常に少ない。
「三代続く店はない」と言われる韓国では、京城紡績、三養、柳韓洋行など最も古い会社でも、せいぜい創立80年だという。
中国には老舗と言える店があり、漢方薬「六味地黄丸」で知られた「北京同仁堂」が1669年創業だという。しかし、革命を経て、純民間会社が認められなかったので、厳密に言えば創立百年以上の会社はないそうだ。
歴史が長いだけではない。日本の老舗は、やっていることもすごい。
時代の最先端をゆく携帯電話には、日本の老舗企業の知恵が詰め込まれている。
携帯の折り曲げ部分には、京都の創業三百年のもともとは金箔屋の技術が使われている。携帯から漏れる電磁波を防ぐ銀の塗料、内部の配線基板の小型化を進める部品もこの会社が開発した。
着信をブルブル震えて知らせる機能に必要な特殊な極小ブラシは、百数十年前、東京の日本橋で開業した両替商だった会社が作る。
液晶の画面には、静岡で明治時代にランプや鏡台を製造販売していた会社の、小さな鏡が多用されている。
携帯の心臓部の発振器の世界的な特許を持つのは、神奈川の老舗企業だ。この会社は戦争中は軍艦や戦闘機に搭載する無線機を作っていたという。
さらに、秋田のかつて銅山を経営していた会社が、銅鉱石から銅を取り出す技術を転用して、廃棄されていく膨大な量の携帯電話から、金や銀などの貴金属を抽出している。
以上、みな創業百年以上の会社だという。
世界でも例のない老舗の文化が、なぜ日本にあるのか。その理由は本に譲るが、日本人の素晴らしい知恵が働いている。
私はこの本『千年、働いてきました』を読んで、モノづくりだけでなく、会社の経営、家族の営みにも生かされてきた日本文化の奥深さに感嘆した。そして日本人であることの誇りが沸いてきて、人に会うごとにこの本を薦めてきた。
愛国心を育てる本は?と聞かれたら、私はまずこの本を挙げたい。ここで言う「愛国心」が、戦争や軍国主義などと全く縁がないことは言うまでもない。